タングステン価格が歴史的急騰し、半導体を中心とした世界の製造業に大きな揺らぎが生まれています。超硬工具や電子部材に欠かせない戦略物資であるタングステンは、供給の大半を中国に依存しており、輸出規制強化が価格を一気に押し上げました。先端半導体では使用量が増える一方で代替が難しく、需要増と供給制約が重なり、今後のさらなる高騰リスクが現実味を帯びています。企業は中国依存を回避した調達戦略の再構築を迫られています。
タングステン価格が歴史的急騰──世界の製造業を揺るがす“戦略物資”の現在地
タングステンは、ダイヤモンドに次ぐ硬度、極めて高い耐摩耗性、そして金属としては異例の高比重を持つ、製造業の根幹を支える戦略物資です。超硬工具をはじめ、半導体、電子部材、石油精製、重工・航空宇宙など、現代産業のあらゆる領域で欠かせない存在となっています。
そのタングステンが今、歴史的な価格急騰(価格トレンドチャートをご参考)という大きな転換点を迎えています。
供給リスク、地政学、需要拡大、そしてリサイクル市場の成長──複数の要因が重なり、世界の製造業に直接的な影響を与えています。特に半導体分野では需要が急増しており、今後のさらなる価格上昇が最大の懸念材料となっています。
さらに、中国依存を回避した調達先を考える必要にも迫られており、企業の調達戦略は大きな転換点を迎えています。
この記事では、タングステン価格急騰の背景、用途への影響、そして資源循環が生む新たな成長機会について、最新データをもとにわかりやすく整理します。
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■ タングステンとは何か──製造業を支える“代替不可能な金属”
タングステンの特性は圧倒的です。
- ダイヤモンドに次ぐ硬度
- 極めて高い耐摩耗性
- 比重19.3(鉄の約2.5倍)
- 金属中最高クラスの融点(3,422℃)
この特性が、以下の用途を支えています。
● 主な用途
- 超硬工具(最大用途)
切削・穴あけ・金型など、製造業の基盤を支える工具に不可欠。 - 半導体
W配線、CVDターゲット、装置部材などで需要が増加。 - 電子部材
電極、ヒーター、X線管フィラメントなど。 - 石油精製触媒
- 重工・航空宇宙部品
世界需要は 2034年まで CAGR 2.1% と予測され、今後も堅調な成長が続くと見られています。
■ タングステン価格が急騰──2024〜2026年は“歴史的高値フェーズ”へ
2024年以降、APT(パラタングステン酸アンモニウム)や精鉱価格は急騰しています。
- 2024年:上昇基調に転換
- 2025年:供給逼迫が顕在化
- 2026年:歴史的高値圏に突入
わずか数カ月で価格が跳ね上がる局面もあり、市場は明確にタイト化しています。特に半導体分野では、タングステン使用量が増える傾向にあり、需要増が価格上昇圧力をさらに強めています。


■ 価格急騰の最大要因──“中国依存”という構造リスク
タングステン市場の最大の特徴は、供給源が中国に極端に偏在していることです。
● 2024年のタングステン鉱石生産シェア
- 中国:82.3%(圧倒的)
- ベトナム
- ロシア(現在は国際市場に供給せず)
- EU、スペイン、英国、韓国、ボリビア、アフリカ諸国
世界の精鉱の約80%を中国が握っているため、中国の政策=世界価格 という構造が続いています。

● 2024年2月:中国が輸出規制を強化
米中摩擦を背景に、中国はタングステンの輸出管理を厳格化。
これにより、APT・精鉱価格は急騰し、世界市場は供給不安が一気に顕在化しました。
この状況を受け、企業は中国依存を回避した調達先の検討を迫られており、サプライチェーンの再構築が急務となっています。
■ 用途への影響──製造業・半導体・重工に波及
タングステン価格の上昇は、以下の産業に直接影響します。
① 超硬工具
- 工具メーカーの原価上昇
- 加工コストの増加
- 工具寿命・性能要求の高度化
② 半導体
- W配線・CVDターゲットのコスト上昇
- 装置部材の価格上昇
半導体は今後10年でタングステン需要が増える傾向であり、この需要増が価格上昇をさらに加速させる可能性が高い点が最大の懸念です。
③ 電子部材・重工・航空宇宙
- 高温・高負荷部品のコスト増
- 代替材料が少ないため価格転嫁が難しい
タングステンは代替性が低いため、
価格上昇=産業全体のコスト上昇につながりやすいのが特徴です。
■ リサイクルが新たな成長機会に──循環型タングステン市場の拡大
タングステンはレアメタルであり、供給源が偏在しているため、
安定調達にはリサイクル率向上が不可欠です。
● 世界のリサイクル率:25%(まだ低い)
- 多くは超硬工具スクラップとして工場から排出
- 回収余地は非常に大きい
- スクラップ回収網が整備されつつあり、市場は拡大中
● リサイクルが成長機会となる理由
- 中国依存リスクの低減
- 価格高騰でリサイクルの経済性が向上
- 需要増に対して供給が追いつかない
- ESG・資源循環の観点で企業価値向上に寄与
企業にとって、バージン原料+スクラップリサイクルの両輪で供給安定化を図ることが必須になっています。
■ まとめ:タングステン市場は“供給制約 × 需要増”で構造的な高値へ
- タングステンは製造業・半導体に不可欠な戦略物資
- 世界需要は2034年まで CAGR 2.1%
- 供給は中国に極端に依存(82.3%)
- 2024〜2026年は価格急騰フェーズ
- 半導体需要の増加がさらなる価格上昇リスクを高めている
- 中国依存を回避した調達先の検討が急務
- リサイクル率25%は伸びしろが大きい
- 資源循環強化は 供給安定化・コスト安定化・事業成長 の三点で大きな機会
タングステン市場は今、
「供給制約 × 需要増 × リサイクル拡大」 という大きな構造変化の中にあります。
企業にとってはリスクであると同時に、資源循環を軸とした機会を考える時であるかもしれない。
参考記事
・日本特殊材料株式会社 月別タングステン価格表
・日本経済新聞 レアメタルのタングステン高騰、年初比3倍 製造業支える工具に影
・日本経済新聞 住友電工、タングステンを5割増産 159億円で富山に新工場
・ハンギョレ新聞 韓国の江原道で「世界最大」のタングステン鉱山が再開…レアメタルが6000万トン


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