Micronが台湾のPSMC銅鑼工場を完全買収し、独自取材で明らかになった戦略は台中DRAM工場との連携による半導体エコシステム強化だ。AIやデータセンター需要の急拡大でHBMはすでに完売、DRAMとNANDの供給逼迫が続く中、Micronは台湾での製造からパッケージングまでを統合し、シンガポールでの240億ドル投資によるNAND増産と合わせ、グローバル市場での競争力を高める。
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Micronの攻勢が加速する:台湾とシンガポールを舞台に広がる半導体戦略
半導体メモリ市場は今、AIとデータセンター需要の爆発的な拡大によって歴史的な転換点を迎えた。その中心にいるのが米国のメモリ大手 Micron Technology(美光) だ。2026年以降も需給逼迫が続くと予測される中、Micronは台湾とシンガポールを軸に、攻めの投資を次々と打ち出した。
HBMはすでに完売、2026年以降も続く逼迫
MicronのCEO Sanjay Mehrotra氏は「2026年には主要顧客の需要の半分から3分の2しか対応できない」と明言した。MicronとSK hynixはすでに2026年向けHBM在庫を完売しており、AIやデータセンター向けの需要がいかに強烈かを物語っている。
台湾・PSMC銅鑼工場の完全買収
Micronは台湾の 力晶積成電子製造(PSMC) の銅鑼(Tongluo)工場を18億ドル(約2,800億円)で完全買収した。2026年4〜6月期に取引完了予定で、2027年後半からDRAM供給拡大に貢献する見込みだ(日本経済新聞)。
独自取材による追加情報
PSMC幹部によれば、この買収は「完全買収」であり、Tongluo工場はMicronが占有する。
- Tongluo工場はもともとLogic ICのWoW(Wafer on Wafer)やCoW(Chip on Wafer)技術を進めようとしていた。Micronが買収した理由は、このパッケージング技術にある。
- Micronは台中に主力DRAM工場を持ち、Tongluoを取り込むことでDRAMからパッケージングまで含めたエコシステムを構築し、増産体制を整える狙いだ。
- 一方PSMCのロジックプロセスは32nm/28nm/22nmまでの成熟世代、DRAMは1X世代、NANDは3X世代までと技術的に古く、WoWやCoWを進めても明確なビジネスターゲットが見えず、経営環境も整っていなかった。資金需要が強く、Micronの買収は「渡りに船」だったといえる。
- PSMCの見返りは、Micronのパッケージング技術の一部ライセンス供与だ。PSMCは自社のどこかの工場で活用できる。
- Tongluo工場の従業員は、一部オペレーターを除き、2026年4月までに移動完了予定だ。
この買収によりMicronは台湾でのDRAM供給力を一段と高め、AI時代の需要に応える体制を整えた。
シンガポールで240億ドルのNAND投資
さらにMicronはシンガポールで240億ドル(約7,560億台湾ドル)を投じ、NANDフラッシュの新工場を建設した。
- 70万平方フィートのクリーンルームを備え、2028年後半に稼働予定だ。
- 約1,600人の雇用を創出し、グローバル供給網の中核拠点となる。
- NAND不足が深刻化する中、長期的な安定供給を狙った布石となっている。
台湾建設業者に広がる恩恵
Micronの攻勢は台湾の建設業者にも巨大な波及効果をもたらしている。
- 亞翔(Asia Engineering)
- シンガポールで最多案件を獲得し、Micronの新工場建設で最大の勝者となった。
- 累計受注額は数千億台湾ドル規模と推定され、未施工契約額は前年比34.4%増の1,753億元に達している。
- 台湾・シンガポール両拠点からの受注で、2026〜2027年も利益成長が期待されている。
- 洋基工程(Yankee Engineering)
- 美光の供給網に初参入し、台湾南科工場の統包工事を受注したと推測されている。
- 受注残高は500億元の過去最高を記録した。
- 台中后里・銅鑼工場の増産計画により、今後の受注機会がさらに拡大すると見られている。
総括:Micronの二正面作戦とエコシステム構築
Micronは台湾(DRAM強化+パッケージング統合)とシンガポール(NAND拡張)を二大拠点に据え、AI時代のメモリ需要に応えるべく攻勢を強めている。HBM不足が続く中、DRAMとNANDの両面で供給力を高める戦略は、グローバル市場での存在感を一層際立たせている。
特に台湾では、台中工場と銅鑼工場を組み合わせることで、製造からパッケージングまでを含む完全なエコシステムを形成し、Micronの競争力を高めている。
そして、その波は台湾の建設業者にまで広がり、亞翔や洋基工程といった企業が「隠れた勝者」として脚光を浴びている。Micronの投資は単なる設備増強にとどまらず、台湾・シンガポールの産業エコシステム全体を押し上げる起爆剤となりつつあるのだ。
参考資料
・經濟日報:美光大擴產引爆建廠商機 亞翔成最大贏家 洋基也沾光
・EETimes:MicronがPSMCの工場買収を画策? 中国CXMT躍進……メモリ業界の最新動向
・日本経済新聞:台湾半導体受託のPSMC、2800億円で工場売却 米マイクロンに


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