2025年10月の米中首脳会談は追加関税引き下げやレアアース規制見送りで表面的には緊張緩和を演出したが、半導体の視点では規制の実効性と緩和の政治的理由が浮き彫りとなった。中国は時間稼ぎの間に国産化を加速し、日本人技術者を高待遇で登用。米国は規制を外交カードとして保持しつつチャイナプラス1戦略で供給網を再編している。
序論:釜山での米中首脳会談
2025年10月30日、韓国・釜山で習近平国家主席とトランプ大統領が6年ぶりに直接会談した。追加関税の一部引き下げやレアアース輸出規制の1年間見送り、米国産大豆の輸入拡大といった合意が発表され、表面的には米中関係の緊張が和らいだかのように見える。しかし半導体の視点で読み解くと、この会談は単なる融和ではなく、規制の実効性とその緩和の政治的意味を浮き彫りにする場面だった。
第1部:規制の実効性 ― 技術的制約の現実
最先端ロジック不足の深刻さ
米国の半導体規制は、中国国内のAI基盤に確実に効いている。SMICなどのファウンドリは7ナノメートル相当の試作に成功したとされるが、量産規模や歩留まり、消費電力効率の面で台湾や韓国の先端メーカーに大きく劣っている。AIサーバーや大規模モデル学習に不可欠なNVIDIAのH100級GPUに代替可能な国産品は存在せず、国内の研究開発は制約を受け続けている。
GPU不足とAI基盤の停滞
現地のクラウド大手である百度やアリババ、テンセントは、規制前に確保した米国製GPUを細かくシェアリングしながら運用している。だがGPUリソースの不足は慢性化しており、研究者や企業は「GPU待ち」の状態に置かれている。これはAIサービスの商用展開スピードを鈍化させ、競争力の低下を招いている。現地目線でも、この規制が確実に効いていることは明らかであり、盤石どころか脆弱さが露呈している。
技術封鎖と人材不足
さらに、EDAツールやEUV露光装置といった先端ノードの量産に不可欠な技術の供給が遮断されていることも大きな制約だ。これにより、中国は先端半導体の量産体制を確立できず、AI基盤の整備において決定的な遅れを抱えている。こうした状況を打開するため、中国は「時間稼ぎ」の間に国産化を加速させようとしており、その一環として日本人技術者の登用を積極的に進めている。実際に、日本人技術者は研究開発支援や品質保証、製造装置の運用改善などの分野で高く評価され、〜3000万円規模の高待遇で招聘されているとの報告がある【EXA Technologies】。
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第2部:緩める理由 ― 政治と経済の計算
交渉カードとしての規制維持
米国が規制を完全に封鎖せず、緩和の余地を残している理由は外交と経済の双方にある。外交的には、規制を交渉カードとして保持することで、中国に対する影響力を維持できる。今回の会談で示された「レアアース規制の1年間見送り」は、単なる譲歩ではなく、次の交渉に向けた布石であり、米中双方がカードを温存していることを意味する。
米国企業の利益確保
経済的な側面も無視できない。NVIDIAやAMDといった米国半導体企業にとって、中国市場は依然として巨大であり、完全封鎖は自国企業の収益を直撃する。米国政府としても、自国の産業界の利益を守るために、規制を「調整可能な状態」に保つ必要がある。規制を一気に強化すれば、中国の技術発展を抑え込めるかもしれないが、その代償として米国企業が市場を失うリスクが高まる。
グローバルサプライチェーンとチャイナプラス1
さらに、過度な規制強化はグローバルサプライチェーン全体に混乱をもたらす可能性がある。半導体は米中だけでなく、台湾、韓国、日本、欧州といった多国間の供給網で成り立っており、米国が一方的に規制を強めれば同盟国や市場への影響も避けられない。そこで注目されるのが「チャイナプラス1」戦略である。これは、中国依存を減らしつつ、ASEAN諸国やインドなどに後工程や組立拠点を分散させる動きであり、米国や日本も積極的に推進している。こうした分散化は、規制リスクを抑えながら供給網の安定性を高める狙いがある【EXA Technologies】。
結論:戦略的猶予としての会談
今回の米中会談は、表面的には緊張緩和の合意に見えるが、実際には規制の実効性を確認しつつ、交渉カードとしての規制を温存する戦略的猶予に過ぎない。中国にとっては国産化を進めるための時間稼ぎであり、その間に日本人技術者を含む外部人材を活用して開発を加速させようとしている。米国にとっては規制を外交カードとして保持するための調整であり、同時に「チャイナプラス1」を通じて供給網の再編を進めている。半導体をめぐる米中対立は、緩和ではなく長期的なデカップリングの過程にあることが、今回の会談からも改めて明らかになったといえる。


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