中国が発表した人工ダイヤモンドと黒鉛の輸出規制は、台湾半導体と電池産業に深刻な影響を及ぼしています。CMPやシリコンバックグラインド工程では歩留まり低下やコスト増が懸念され、電池分野では黒鉛陽極材の供給不安が拡大。台湾・日本・韓国の調達戦略を比較し、サプライチェーンの脆弱性と今後の対応策を多角的に詳細分析する。
中国の人工ダイヤモンド・黒鉛規制が突きつける台湾の脆弱性
CMP・バックグラインドから電池素材まで広がる「戦略資源カード」
序論:中国の規制発表の全体像
2025年11月、中国は人工ダイヤモンド製品と関連装置・技術に加え、合成黒鉛(リチウムイオン電池用陽極材)や一部の超硬材料関連装置に対する輸出規制を施行した。対象には人工ダイヤモンド粉末・単結晶・ワイヤーソー・研削ホイール、DCアークプラズマCVD装置(注:高温プラズマを用いて人工ダイヤモンド薄膜を成長させる装置)、合成黒鉛、さらには一部のレアアース関連装置が含まれる。これは米国の半導体規制に対抗する「技術カード」として位置づけられ、半導体と電池という二大戦略産業を同時に揺さぶる狙いがある。
中国は世界最大の人工ダイヤモンド生産国であり、工業用ダイヤモンド供給の最大90%を支配しています。この規制戦略は、研削・研磨消耗品や半導体産業の世界的なサプライチェーンの配置に直接的な影響を与えるだけでなく、関係国や企業に原材料供給源や独自の研究開発戦略の見直しを促すことになる。
台湾半導体への直接的影響
台湾の半導体産業は、人工ダイヤモンドに強く依存している。CMP(化学機械研磨)工程では、高純度ダイヤモンドスラリーが不足すると研磨速度や表面平坦性の制御が困難になり、TSMCの3nm以下世代やHBM向けパッケージで歩留まり低下のリスクが高まる。シリコンバックグラインド工程では、ダイヤモンドホイール不足が極薄ウェハの割れやチッピングを増加させ、ASE(注:世界最大の半導体後工程受託メーカー、Advanced Semiconductor Engineering)やSPIL(注:Siliconware Precision Industries、台湾の大手OSAT企業)のHBM供給に直撃する。AIサーバー需要が急増する中で、この影響は競争力を大きく削ぐ可能性がある。
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台湾電池産業への波及
半導体だけでなく、電池産業も規制の影響を受ける。合成黒鉛はリチウムイオン電池の陽極材として不可欠であり、台湾はその多くを中国から輸入している。規制により短期的に代替は困難で、EVやエネルギー貯蔵向けの電池サプライチェーンが揺らぐ。日本や韓国からの調達を模索する動きはあるものの、供給量は限られ、価格高騰は避けられない。
業界の反応:在庫確保と買い占め
規制発表直後から、台湾や日本の業者は在庫を1.5倍以上確保する動きを見せた。人工ダイヤモンド粉末や黒鉛陽極材のスポット価格はすでに2〜3割上昇しており、短期的には在庫で対応可能だが、年明け以降は価格転嫁が避けられないとの声が上がっている。物流面でも輸出許可制への移行に伴い、通関遅延や輸出枠の割当が新たなリスクとなる。
リスク比較:半導体と電池
| 項目 | 半導体(CMP・バックグラインド) | 電池(黒鉛陽極材) |
|---|---|---|
| 依存度 | 人工ダイヤモンド工具・スラリーの大半を中国に依存 | 黒鉛陽極材の7割以上を中国から輸入 |
| 短期リスク | 在庫確保競争、価格高騰、歩留まり低下 | 在庫逼迫、価格上昇、EV電池供給不安 |
| 中期リスク | 日本・米国からの調達模索も供給量不足 | 韓国・日本からの調達模索もコスト増 |
| 長期リスク | 国産合成ダイヤモンド投資、レーザー加工など代替技術 | 黒鉛リサイクル・人工黒鉛合成の国産化 |
| 競争力への影響 | HBM・先端ロジックのコスト増で韓国・米国に不利 | EV・再エネ市場での競争力低下 |
台湾・日本・韓国の調達戦略比較
| 地域 | 調達戦略の特徴 | 強み | 課題 |
|---|---|---|---|
| 台湾 | 在庫確保と多元調達を短期対応とし、長期的には人工ダイヤモンド合成や黒鉛リサイクルへの投資を強化 | 世界最大のファウンドリ集積地で需要予測力が高い | 半導体分野で中国依存度が極めて高く、短期的な代替困難 |
| 日本 | 住友電工や富士ダイヤモンドなど国内メーカーを活用し、部分的に自給可能 | 高品質な工具・素材メーカーを国内に抱える | 生産規模が限られ、コスト上昇は避けられない |
| 韓国 | SK・LGが電池分野で黒鉛調達を多角化し、インド・東南アジアからの供給ルートを模索 | 電池分野での調達多元化が進展 | 半導体分野では台湾同様に中国依存度が高い |
この比較から、日本は「部分的自立」、韓国は「電池分野での多角化」、台湾は「半導体分野での脆弱性露呈」という特徴が浮かび上がる。
戦略的示唆
今回の規制は、台湾にとって二重の依存リスクを突きつけた。半導体と電池の両分野で中国依存が露呈し、歩留まり悪化やコスト増は韓国や米国との競争に不利に働く。台湾は「半導体=設計+製造」という従来の枠組みから、「半導体+素材+電池」へと産業政策の視点を拡張する必要がある。素材産業の強化と調達多元化が、次の10年の競争力を左右するだろう。
結論:危機と転機の分岐点
中国の規制は、台湾にとって「見えにくいが致命的なチョークポイント」を突いた。短期的には供給不安とコスト上昇、中期的には調達網再編、長期的には国産化と技術革新が進むと予想される。台湾がこの危機を「素材産業強化の契機」に変えられるかどうかが、今後の競争力を決定づける。
参考リンク
- HonWay Materials
中国が人工ダイヤモンドの輸出規制を実施:世界のサプライチェーンと台湾の産業は新たな課題に直面
→ 中国が人工ダイヤモンド粉末・単結晶・ワイヤーソーなどを規制対象に追加した詳細を解説。 - JETRO ビジネス短信
レアアース関連品目を含む複数の品目を輸出管理の対象に追加(中国)
→ 中国商務部・税関総署による公告。人工ダイヤモンドや黒鉛を含む超硬材料関連品目の規制が明記。 - グローバルダイヤモンド社
中国当局の超硬材料関連品目に対する輸出規制について(第5報)
→ 日本のダイヤモンド工具メーカーによる現場対応と規制内容の整理。 - TrendForce
TrendForce:半導体サプライチェーンへの影響分析
→ 半導体製造工程(CMP・バックグラインド)における人工ダイヤモンド規制の影響を分析。 - Bloomberg
Bloomberg:EV電池と半導体への波及リスク
→ 黒鉛と人工ダイヤモンド規制がEV電池・半導体産業に与える国際的リスクを報道。


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