中国の半導体メーカーが日本人技術者に年収5000万円の破格条件を提示し、“日本人争奪戦”が進む。NAURAやKingsemiは精密制御や塗布・現像、洗浄など日本の強みを狙い、Vital Materialsは次世代ロジック向けRu材料を国産化。中国の技術流入戦略と、日本人技術者が抱える重大なリスクと誘惑を読み解く。
遂に破格の給与提示──中国半導体装置・材料メーカーが日本人技術者を本格招聘へ
2025年に入り、中国の半導体装置・材料メーカーが日本人技術者の採用を一段と加速させている。募集欄には「〇〇エキスパート」といった肩書きが並び、中国企業であることは一目瞭然だ。
提示される年収は最大5,000万円。しかも、技術・経験・過去のポジションに応じて、ここからさらに上積みされるケースもある。
日本企業では到底提示できない水準に達している。
年収提示は過去最高水準
今回、日本人技術者の採用を強化している主な企業は以下の3社である。
- NAURA:2,000万〜5,000万円(技術・経験によりさらに加算)
- Kingsemi Japan:3,000万〜5,000万円(ポジションに応じて上積み)
- Vital Materials:1,500万〜2,000万円(専門性により増額)
装置メーカーのNAURA・Kingsemiが突出しており、材料メーカーのVital Materialsも日本企業の相場を大きく超える。
下記の募集内容はビズリーチからの抜粋だが、大手ハイクラス転職エージェントでも同様の求人が掲載されている。ビズリーチの場合は、登録後に担当エージェントからプラチナメッセージとして案内が届くケースが多いようだ。
事実、中国現地で出会った日本人技術者の多くは、ビズリーチなどの転職エージェントを通じて海を渡っている。
Huawei(華為)は、エージェントを通じる場合も多いが、独自路線で、日本の秘密基地(千葉県船橋市鈴身町)を通じて人材を集めている。



※ 募集掲載はビズリーチ (https://www.bizreach.jp/) より抜粋
NAURA──中国最大の装置メーカーが狙う“日本の精密制御技術”
NAURA(北方華創科技集団)は中国最大の半導体製造装置メーカーで、2024年には世界ランキング6位に浮上した。今回の募集職種を見ると、狙いは極めて明確である。
募集内容には、『炉体製造、洗浄機事業部CTO、縦型炉(LPCVD/ALD)のプロセス・ハード・電気・ソフト、300mmエッチング装置のプロセス/RF/機械/ソフト、ドライクリーニング装置、ウェーハ洗浄装置』などが並ぶ。
対象は明らかに TEL、KOKUSAI、SCREEN の技術者層だ。
中国のNANDメーカー YMTC では装置の約80%が国産化されたと言われるが、歩留まり・信頼性は依然として課題が残る。そのボトルネックが精密制御技術であり、そこに日本人技術者を投入したい意図が読み取れる。
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Kingsemi Japan──日本で“塗布・現像”と“洗浄”を強化
Kingsemi Japan は、中国の装置メーカー Kingsemi の日本法人である。
募集職種には、『コータ・デベロッパ装置開発、塗布現像プロセス開発、枚葉式洗浄装置開発、ケミカル洗浄プロセス開発』などが並ぶ。
Kingsemi の主力は塗布・現像装置(TELの牙城)であり、さらに洗浄装置(SCREENの領域)も強化している。日本の精密機械・制御・材料技術を取り込む狙いが極めて明確だ。
一方で、2024年12月には Kingsemi Japan K.K. と Kingsemi Kyoto K.K. が米国BISのエンティティリスト入りしており、軍事転用リスクが指摘される企業への協力は慎重な判断が求められる。
Vital Materials──次世代ロジック向け“Ruターゲット材料”を国産化へ
Vital Materials はレアメタル精製の大手で、インジウム、ゲルマニウム、テルル、ガリウムなどを扱う材料企業である。
今回の募集は、
『ルテニウム(Ru)スパッタリングターゲット材料の研究開発エキスパートだ。
業務内容には、Ru純金属/合金の溶解プロセス最適化、急冷凝固制御、高密度ターゲットの欠陥抑制、微細構造解析、スパッタ特性評価、大型ターゲットの連続鋳造プロセス設計、不純物挙動モニタリング』などが含まれる。
これは、先端ロジック(2nm以降)の配線材料開発を意味する。次世代ロジックではCu配線の限界を超えるため、Ru配線が本命材料として世界中で研究が進む。TSMC、Intel、Samsung がすでに開発を加速している領域だ。
すなわち、今回の募集が目指しているのは、先端ロジック向け配線材料の供給開発である。2nm以降の下層配線では、従来のCuに代わってRuが採用されるロードマップが示されており、TSMC、Intel、Samsungは次世代に向けて開発を加速している。
一方、中国の先端ロジックを担うSMICはASMLのEUV露光装置が禁輸されているため、主要メーカーに比べてIC性能で遅れがあることはIC分析会社TechInsightsなどの分析で明らかになった。EUVが入手できない状況下で、中国国内では独自のEUV露光装置を開発するプロジェクトが秘密裏に進行している。
そして、先端ロジックICに不可欠なRu配線の高純度ターゲット材料についても、国産化を進める意図が今回の募集内容から読み取れる。
日本人技術者が“国家プロジェクトの標的”になっている現実
中国は半導体自給率を高める国家プロジェクトを推進しており、装置・材料の国産化は最優先課題である。
日本の半導体大手企業では、課長・部長級で多くても年収1,500万円前後。
60歳を超えると年収が半減するケースが珍しくない。
そこに、年収3,000万〜5,000万円に加え、技術・経験に応じた上積み、住居・食事手当、通訳付きといった条件が提示されれば、心が動く技術者が出ても不思議ではない。
しかし、その技術が中国の軍事転用につながる可能性、米国の制裁対象企業に関わるリスク、日本企業への帰属意識・技術者としての矜持など、考えるべき点は多い。
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結び──“破格の年収”の裏にある国家戦略を見誤ってはならない
今回の募集は単なる採用活動ではなく、中国が国家を挙げて進める半導体国産化プロジェクトの一環である。日本人技術者はその中心的ターゲットになっている。
高額報酬の誘惑と、技術者としての責任。
その狭間でどのような選択をするのか。
今まさに、日本の技術者の矜持が問われている。

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