台湾版チップ法3年目・5社申請――TSMCは納得、だがWinbondが適用なら法の趣旨が問われる

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台湾の半導体産業を支える大型税制優遇措置「台湾版チップ法(台版晶片法)」の2026年度申請が5月末に締め切られ、今年も5社が申請したことがわかった。経済部(経済産業省に相当)は一貫して申請企業名の開示を拒否しており、適用企業の実態は不透明なままだ。

この不透明さが今、ある疑問を浮かび上がらせている。毎年メディアが「要件を満たす候補」として名前を挙げる企業の中に、Winbond Electronics(華邦電子、2344)が含まれているからだ。

Winbond はローテクフラッシュメモリ・特殊 DRAM の世界的サプライヤーだが、その製造プロセスは TSMCが量産する 2nm/3nm とは桁違いの成熟ローテクノードである。「先端プロセスへの投資を促す」ことを旗印に掲げる台湾版チップ法に、成熟プロセス専業のメーカーが含まれうるとすれば、それは法の趣旨の拡大解釈ではないか。経済部が企業名を秘匿し続ける限り、こうした疑念は払拭できない。仮に Winbond が実際に適用を受けているなら、台湾版チップ法は「保護貿易的な業界補助」との批判を免れないだろう。メディアはこの点をより踏み込んで追及すべきだ。

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台湾版チップ法とは

「台湾版チップ法」と呼ばれるのは、《産業創新条例》第10条之2のことだ。2023年8月7日に施行され、今年が適用申請3年目にあたる。

法律の目的は、台湾国内で先端・革新的な研究開発を行い、国際サプライチェーンにおいて重要な役割を担う企業を税制面から支援することにある。適用分野は半導体、電気自動車、通信、ディスプレイなど、国際的に競争力のある技術領域に限定されている。

台湾史上最大規模の税制優遇とも言われ、業界内の注目度は非常に高い。

申請できる企業の条件(門槛)

優遇を受けるには、以下の3要件をすべて満たす必要がある。業種の制限はない。

  • 研究開発費が60億台湾ドル以上
  • 研究開発密度(研究開発費÷純売上高)が6%以上
  • 先端プロセス向け設備投資が100億台湾ドル以上

さらに、2025年度の実効税率が15%以上であることも必要条件となっている。

優遇内容

要件を満たした企業には以下の税額控除が認められる。

  • 先端・革新的な研究開発支出:当年度の25%を税額から控除
  • 先端プロセス設備購入支出:当年度の5%を税額から控除

この控除率は台湾の税制史上例を見ない水準であり、「史上最大の税制奨励措置」と位置づけられている。

台湾Chip法のポイントと申請状況

第10条之1(一般設備投資向け)
対象分野:
スマート機器、5G、サイバーセキュリティ、AI、脱炭素関連
優遇内容:
1)設備・ソフトウェア・技術サービス購入額の5%を法人税から控除。
2)対象投資額の上限は20億台湾ドル

第10条之2(台湾版チップ法)
優遇内容:
1)先端研究開発費の25%を税額控除
2)先端製造設備投資額の5%を税額控除
適用条件:
・研究開発費:60億台湾ドル以上
・研究開発比率(R&D/売上高):6%以上
・先端製造設備投資額:100億台湾ドル以上
申請状況:2026年度申請は5社

申請状況の推移

申請年対象年度申請社数実効税率要件
2024年(1年目)2023年度4社12%
2025年(2年目)2024年度5社15%
2026年(3年目)2025年度5社15%

いずれの年も経済部は申請企業名を一切公表していない。「申請者はすべて半導体関連企業」という一言のみが公式コメントとして出ているだけだ。

1年目(2024年申請) は2023年度の業績が対象で、研究開発費・研究開発密度の両要件を満たす上場企業は8社が名指しされた(後述)。そのうち実際に申請したのは4社にとどまった。TSMC(台湾積体電路製造、2330)・MediaTek(聯發科、2454)・Realtek(瑞昱、2379)・Novatek(聯詠、3034)・Phison(群聯、8299)・Delta(台達電、2308)・Nanya Technology(南亞科、2408)・Winbond(華邦電、2344)の8社が有力候補として取り沙汰され、TSMCとMediaTekを含む4社が申請したと有力視された。

2年目(2025年申請) は2024年度が対象。実効税率要件が12%から15%に引き上げられたにもかかわらず、申請社数は5社に増加した。2024年の上場企業財報では、1年目の8社にUMC(聯華電子、2303)が加わった9社が研究開発費・研究開発密度の要件を満たしていると確認された。

3年目(2026年申請・今年) も5社で、先端プロセス増産を急ぐTSMCが引き続き有力視されている。

TSMCは今年も適用か

市場では、台湾の「護国神山(国を守る存在)」と称されるTSMCが今年も適用を受けられるとの観測が強い。TSMCが2025年度に計上した研究開発費は約79.2億ドルと過去最高を更新しており、研究開発費の売上高比率も6.5%に達した。売上高の拡大に伴い研究開発密度は以前より低下しているが、適用要件の6%を上回る水準を維持している。

また、TSMCの2026年設備投資計画は520億〜560億ドルと過去最大を見込んでおり、先端プロセス設備への集中投資という観点でも適用条件を十分に満たすとみられる。

Winbondは「先端」か――法の解釈が問われる

市場がチップ法の候補として名指しする企業の中で、最も違和感を覚えるのが Winbond Electronics(華邦電子、2344)だ。同社はローテクフラッシュメモリと特殊 DRAM を主力とする「ニッチメモリ」の世界的サプライヤーだが、その製造プロセスノードは以下のとおりで、TSMCが量産する最先端技術とは次元が異なる

  • DRAM:20nm(2024年量産開始)→ 1X (16nm;移行中)。DDR4 止まりで、DDR5や HBM といった最先端メモリへの対応ロードマップは示されていない
  • NOR フラッシュ:主力は 58nm、最近 45nm へ移行中
  • NAND フラッシュ:主力は 46nm

DRAM については、Samsung や SK hynix が 10nm 台前半〜一桁 nm へと開発競争を繰り広げる中、Winbond は先端ノードへの自力移行が事実上困難な状況にある。

台湾版チップ法は「前瞻創新研究発展(先端・革新的な研究開発)」への投資を促すことを明確な目的に掲げる。成熟プロセスで産業・自動車・IoT 向けニッチメモリを製造する Winbond が、この「先端」の定義を満たすかどうかは、大いに疑問の余地がある。

同様に、MediaTek(聯發科、2454)・Realtek(瑞昱、2379)・Novatek(聯詠、3034)といった IC 設計(ファブレス)企業についても、研究開発費の大半が人材コストであり、先端製造プロセス設備の購入支出が要件(100 億台湾ドル以上)を満たさない場合、適用から除外されるリスクがある。設備投資を自社で行わないファブレスビジネスモデルは、そもそも本法の設計思想と相性が悪い。

経済部が企業名を秘匿し続ける以上、Winbond のような成熟プロセス企業が実際に恩恵を受けているかどうかは確認できない。だからこそ透明性の欠如が問題なのだ。

審査プロセスと代替措置

申請企業は経済部に対し、製品概要、国際市場シェア・ランキング、輸出入取引実績などの証拠書類を提出する必要がある。経済部は複数部署からなる横断審査チームを設置し、先端研究開発への投資実態を精査する。

要件を満たさないと判定された企業は自動的に他の税制優遇に振り替えられる。具体的には、産業創新条例第10条(研究開発投資控除)や第10条之1(スマート機械設備投資控除)が対象となる。


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