2026年6月4日に開催されたTSMC(台湾積体電路製造)の株主総会で、董事長兼CEOの魏哲家(C.C. Wei)氏が放った一言が台湾メディアで大きく報じられた。
Samsungが掲げる「10年以内にTSMCへ追いつく」という目標について問われると、魏氏はわずか二文字でこう答えた。
「做夢(夢だ)」
現在のTSMCの圧倒的な競争力を考えれば、その自信には十分な根拠がある。しかし半導体業界の歴史を振り返ると、絶対王者と呼ばれた企業が永遠に勝ち続けた例は少ない。今回の発言は、TSMCの強さを示すと同時に、「驕れる者は久しからず」という言葉を思い起こさせるものでもあった。
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「10年後に追いつく」は20年以上前から聞いている
株主総会では、Samsung Foundryの追い上げについて株主から質問が寄せられた。
これに対し魏氏は、「20年前も10年後に追いつくと言われた。10年前も同じだった。そして今もまた同じことを言っている」と振り返った。そのうえで、「私のコメントは二文字だけだ。夢だ」と言い切った。
確かに現状を見る限り、TSMCとSamsungの差は依然として大きい。AI向け最先端半導体では、NVIDIAやAMD、Appleなど世界の主要企業がTSMCへ製造を委託しており、その優位性は揺らいでいない。
だからこそ、この発言は単なる挑発ではなく、現在の市場環境を反映したものとも言える。
TSMCの強さは技術だけではない
魏氏が強調したのは、TSMC単独の技術力ではなく、台湾全体の半導体エコシステムだった。
台湾には半導体製造だけでなく、材料、装置、封止・テスト、電子機器組立までを含む巨大な産業集積が存在する。TSMCはその中心に位置している。
工場を建設することはできても、数十年かけて形成されたサプライチェーンを再現することは簡単ではない。魏氏が「簡単には追いつけない」と語る背景には、この産業基盤への自信がある。
近年は米国や日本でも半導体投資が活発化しているが、最先端ロジック半導体の中心が依然として台湾であることに変わりはない。
魏哲家氏が語った競争・供給網・台湾の強み

① グローバル競争への考え方
TSMCは顧客価値に見合った価格設定を目指す
突発的な大幅値上げは考えていない
顧客との長期的なパートナーシップを重視する方針
② 価格戦略
TSMCは顧客価値に見合った価格設定を目指す
突発的な大幅値上げは考えていない
顧客との長期的なパートナーシップを重視する方針
③ 台湾の優位性
台湾は世界最大のロジック半導体生産拠点
TSMCの研究開発の中心は今後も台湾
大量生産も台湾が中核拠点であり続ける
米国・日本など海外拠点は顧客支援やサプライチェーン強化が目的
④ サプライチェーンの見通し
半導体業界では一時的な供給不足や価格上昇は発生する
しかし市場メカニズムによって最終的には需給バランスが取れる
TSMCは長期的な視点で供給網を見ている
AIブームがTSMCをさらに強くした
現在のTSMCを語るうえで欠かせないのがAI需要だ。
生成AIの急成長により、高性能GPUやAIアクセラレータ向け半導体の需要は拡大を続けている。その中心にいるのがTSMCである。
興味深いのは、TSMCの課題が「受注不足」ではなく「供給不足」であることだ。顧客からの需要が生産能力を上回る状況が続いており、同社は台湾だけでなく米国や日本でも増産投資を進めている。
こうした状況を考えると、魏氏が競争相手に対して強気な姿勢を見せるのも理解できる。少なくとも現在のAI市場において、TSMCは極めて有利な立場にある。
それでも「驕れる者は久しからず」
もっとも、今回の発言を聞いて複雑な印象を持った人もいるだろう。
TSMCは現在、世界半導体産業の頂点に立っている。しかし業界の歴史を振り返れば、その地位が永遠に続いた企業は存在しない。
かつて日本の半導体メーカーは世界市場を席巻していた。Intelも長年にわたり絶対王者として君臨していた。しかし技術革新や市場環境の変化によって、その優位は崩れていった。
もちろん、現時点でSamsungがTSMCを逆転する可能性は高くない。しかし「驕れる者は久しからず」という言葉が示すように、絶頂期こそ慢心への警戒が必要になる。
今回の魏氏の発言を、「圧倒的な実力に裏付けられた自信」と受け取るか、「やや自信過剰」と見るかは、人によって評価が分かれるだろう。
いや、台湾では「驕れる者は久しからず・・・諸行無常の響きあり・・・」という言葉自体が存在しない。
本当に心配しているのは少子化だった
実は今回の株主総会で、魏氏が最も深刻な表情で語ったのは競争相手の話ではなかった。
それは台湾の少子化問題である。
TSMCは育児支援制度や柔軟な働き方の導入を進めており、社員の出生率は台湾平均を大きく上回るという。それでも台湾全体の出生率低下には強い危機感を抱いている。
理由は明確だ。AI時代の競争力を支えるのは設備ではなく人材だからである。
最先端工場も研究開発も、最終的には優秀なエンジニアや技術者がいなければ成り立たない(TSMCは毎年8000人の新卒を採用している。数年後には大量離職するが)。さらに社会全体を支えるサービス業や教育、医療分野の人材も必要になる。
魏氏にとって本当の脅威は、SamsungでもIntelでもなく、将来の人材不足なのかもしれない。
まとめ
今回のTSMC株主総会では、「Samsungが追いつくのは夢だ」という発言が大きな注目を集めた。
しかし、その発言以上に重要なのは、TSMCがなぜそこまで自信を持てるのかという点だ。AI需要の拡大、台湾の半導体エコシステム、そして世界中の主要顧客との強固な関係が、その背景にある。
一方で、半導体産業の歴史は絶対王者が永遠ではないことも示してきた。「驕れる者は久しからず」という言葉は、TSMCに対しても決して無関係ではないだろう。
現在のTSMCは間違いなく世界最強の半導体企業である。しかし魏哲家氏自身が語ったように、その未来を左右するのは競争相手ではなく、人材を生み出す社会の力なのかもしれない。


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