PSMC(力積電、パワーチップ)のQ1黒字転換は工場売却益が主因。本業黒字はわずか130億円。AI特需でNANYAが売上3倍の中、DRAMは先端ノード停止、NANDは後発で競合に劣後。中国市場も縮小する中、三重苦の中で3D AI Foundry戦略に勝算はあるのか。台湾各社との売上差は歴史的水準に拡大し、構造問題が鮮明になっている現状だ。
「黒字転換」の虚実——力積電(PSMC)は本当に復活したのか
2026年4月22日|半導体業界深層レポート
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「10四半期ぶりの黒字転換」
「10四半期ぶりの黒字転換」——そんな見出しが踊った。台湾の晶圓代工(ファウンドリー)大手・力積電(PSMC、証券コード6770)が2026年Q1決算を発表し、メディアはこぞって復活を演出した。だが、数字の裏側を少し掘り下げれば、そこに広がるのは「復活」とはほど遠い現実だ。売上は競合他社に大きく水をあけられたまま、技術は市場の主流から取り残され、頼みの中国ビジネスは地政学の波に飲み込まれつつある。工場を売り、その代金で帳簿の赤字を消した——それが今回の「黒字転換」の正体だ。
グラフが語る残酷な真実:PSMCだけが取り残されている
まず、数字を直視してほしい。下の2つのグラフは、台湾の主要メモリ関連4社——Macronix(旺宏)、Winbond(華邦)、PSMC(力積電)、NANYA(南亜科技)——の月次売上高推移だ(筆者が各社の公表数値をもとに作成)。

PSMCは2023年以降、AI特需にもかかわらず横ばいが続く。

AI需要が爆発した2025年後半以降、各社の軌跡は劇的に分岐した。NANYAの月次売上は2026年3月に約18,000億台湾元に達し、わずか半年あまりで3倍近くに跳ね上がった。Winbondも同様に急伸し、約14,500億台湾元まで伸ばしている。この2社は、世界的なDRAM・NANDの供給不足という市況の追い風を、そのまま売上に変換した。
では力積電はどうか。ほぼ横ばいだ。 2026年3月時点でも月次売上は約4,700億台湾元にとどまり、NANYAとの差は4倍近くに開いた。歴史的なメモリ特需の真っ只中にいながら、その恩恵をほとんど取り込めていない。これは単なる規模の差ではなく、構造的な問題の表れだ。
Q1決算の「真実」:3,300億円の利益の正体
力積電が発表したQ1の数字を見れば、確かに印象的だ。
- 税引き後純利益:142.31億台湾元(約3,300億円)、EPS 3.36台湾元
- 売上高:135.72億台湾元(約3,200億円)、前期比+9%・前年同期比+27%
- 粗利率:10%(前四半期6%から改善)
しかし冷静に見てほしい。この「3,300億円の利益」の圧倒的大部分は、銅鑼(Tongluo)P5工場をMicronに売却した際の一過性の売却益だ。売却代金13.6億ドル(約2,200億円)がQ1中に丸ごと計上されたことで、見た目の利益が膨らんだにすぎない。
その売却益を取り除いた本業の利益は、わずか約5.6億台湾元(約130億円)。黒字転換したこと自体は評価できるが、それは「10四半期続いた赤字からようやく脱した」という水準であり、NANYAやWinbondが市況の波に乗って積み上げている利益とは、まったく次元が異なる話だ。
要するに、力積電は「工場を売って借金を返し、ようやく息をついた」のだ。それを「黒字転換・復活」と呼ぶには、あまりにも違和感がある。
DRAM事業の深刻な空洞化:時代の列車に乗り遅れた
なぜ力積電は、この歴史的なメモリ特需の中で売上を伸ばせないのか。その答えは技術ポートフォリオにある。
力積電のDRAM事業は、1Xノード以降の先端プロセス開発を停止している。現在保有するのはDDR4・DDR3という旧世代技術だ。市場が渇望するDDR5もHBM(High Bandwidth Memory)も、手元にない。この点はWinbondも同様の制約を抱えているが、Winbondは少なくとも旧世代DRAMの価格高騰を売上に乗せることに成功している。
では力積電は? DDR4・DDR3の技術は持ちながら、NANYAやWinbondのように決算の売上に反映できていない。 代工(ファウンドリー)業という業態の違い、顧客基盤の問題、製品競争力——複数の要因が絡み合い、市況の追い風がそのまま売上に変換されないのだ。
今回の法説会では、Micronとの共同開発で「1P」次世代DRAMプロセスの開発に着手したことが発表された。2027年Q1に新機台搬入、2028年下半期に量産——これが実現すれば、ウェハ当たりの収益ダイ数は現行比2.5倍になるという。聞こえはいい。しかし現実を直視すれば、その量産が始まる頃には、今のメモリ市況サイクルはとっくに次のフェーズに移っている。技術開発のタイムラインが、市場の要求に根本的に追いついていない。
NAND事業:「空白地帯」への参入は、本当に勝算があるのか
NANDについても、楽観論には慎重であるべきだ。
Samsung・SK hynix・Kioxia・SanDiskといったNAND大手は相次いでSLC NANDの供給終了を宣言しており、産業用機器・ネットワーク・車載向けの顧客は代替サプライヤーを必死に探している。力積電はこの「空白地帯」に商機を見出し、SLC・MLCの24nm開発を再開した——かつて一度止めた開発を、だ。
だが、その「空白地帯」はとっくに先客で埋まっている。現時点で競争力のある代替SLC NANDサプライヤーは以下の通りだ。
| メーカー | プロセス | 対応品種 | 状況 |
|---|---|---|---|
| Macronix(旺宏、台湾) | 19nm | MLC/SLC | 量産済み・パフォーマンス・信頼性・価格で競合優位 |
| GigaDevice(兆易創新、中国) | 19nm | SLC | 量産済み・同上 |
| Sky High Memory(韓国) | 19nm | MLC/SLC | 量産済み・同上 |
| Winbond(華邦、台湾) | 24nm | SLC | 2018年開発開始→2025年ようやくサンプル出荷、競合に劣後 |
| PSMC(力積電、台湾) | 24nm | SLC/MLC | 開発再開・2026年内完了目標(未量産) |
ここで注目すべきはWinbondの事例だ。Winbondは2018年に24nm SLC NANDの開発を始め、2025年にようやくサンプル出荷に漕ぎ着けるまでに7年を費やした。それでも、すでに19nmで量産実績を積み上げてきたMacronixやGigaDeviceの前には、パフォーマンス・信頼性・価格のいずれでも見劣りするというのが業界の評価だ。
力積電の24nm NANDが置かれた状況は、まったく同じだ。年内の製程開発完了・2027年上半期のテープアウトを目標に掲げているが、その時点で競合各社はさらに2年分の量産経験と歩留まり改善を積み上げている。後発で参入しながら、先行する19nmプロセス勢に対してコストと品質の両面でどう差別化するのか——現時点では、具体的な答えが見えない。
「中国ビジネス」という消えゆく幻想
もう一つ、決定的な構造問題がある。中国大陸向けビジネスが、もはや成り立たなくなりつつあるという現実だ。
長らく台湾の半導体メーカーにとって中国は最大市場だった。しかし米中対立の激化と輸出規制の強化により、その構図は根本から崩れている。さらに深刻なのは、GigaDeviceやSky High Memoryといった中国本土のメーカーが、19nmプロセスで競争力のあるSLC NANDを量産できる段階に達していることだ。つまり中国市場では、台湾勢が中国メーカーと真っ向からコスト競争を強いられる環境になっている。
力積電が狙うSLC/MLC NANDの顧客層を、これまで中国企業に多く依存してきたとすれば、その市場自体が縮小・閉鎖されつつある。地政学リスクで外から締め出され、中国国産化の流れで内側からも食われる——中国大陸依存のビジネスモデルは、もはや持続可能な選択肢ではない。
では力積電は、産業用・車載・欧米・日本といった非中国市場向けのニッチSLC/MLCサプライヤーとして、本当に生き残れるのか。 そこには技術の先行優位もなく、量産コストの優位もない。描けるはずの「商圏」が、実は極めて狭い。
法説会(決算説明会)が語った「明るい未来」——その射程距離
力積電の朱憲国総経理は法説会(決算説明会)で、様々な前向きな数字と計画を並べた。ロジック代工については、銅鑼工場売却による供給縮小を背景に、12インチDDICで約30%・CISで約20%・8インチで月平均約10%という値上げを実施済みだ。PMICや電源デバイス向けの投片需要も強いと言う。
3D AI Foundryについても、12インチ高密度キャパシタIPD(シリコンコンデンサ)がIntelのEMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)先端パッケージング向けに採用見込みで、2026年Q2から量産立ち上げ、2027年後半には月産1万枚規模の需要が見込まれると述べた。Micronが資金を拠出するPWFライン(HBMバックエンドウェハ処理)は2027年Q4の量産開始を目指すという。さらには、シリコンフォトニクスへの布石まで言及した。
計画を並べれば確かに壮大だ。しかし冷静に整理すると、これらの収益貢献が本格化するのはいずれも2027〜2028年以降だ。今この瞬間の市況サイクルには間に合わない。現在のメモリ特需の恩恵を横目に見ながら、力積電は次のサイクルへの準備を進めている——それが実態だ。
そもそも、「3年以内に3D AI Foundryの売上比率を20〜30%まで引き上げる」という目標も、現在の売上基盤がNANYAの4分の1以下であることを忘れてはならない。小さな分母を基準にした比率の話だ。
結論:「復活」ではなく「延命」——真価が問われるのはこれから
力積電の2026年Q1決算を総括すれば、こうなる。
工場売却益という一過性の収益で赤字の帳簿を黒に塗り替え、その売却代金で財務体質を立て直した。稼働率や代工価格の改善は確かに進んでいるが、台湾の同業他社が市況の追い風をそのまま売上に変換している局面で、力積電の月次売上はほぼ横ばいのままだ。DRAMは先端プロセスを持たず、NANDは後発参入で競合に劣後し、頼みの中国市場は地政学と国産化の二重の圧力に晒されている。
朱総経理が描く「メモリ代工・ロジック代工・3D AI Foundry」の三本柱戦略は、理念としては正しい方向性だろう。だが、その実現には少なくとも2〜3年の時間が必要であり、その間にNANYAやWinbondとの売上差はさらに広がるかもしれない。
「黒字転換」ではなく「延命」——今の力積電にふさわしい言葉はこちらだ。技術で利益を稼ぐ構造を作れるかどうか。 その答えが出るのは、まだ先の話だ。



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