サムスン電子(Samsung Electronics)が2026年9月8日、横浜市みなとみらい地区にAI半導体向けの先端パッケージング研究拠点「Advanced Package Lab(APL)」を開設しました。拠点整備には5年間で総額400億円が計画され、日本政府や横浜市も支援。サムスンは日本の半導体装置・材料メーカーとの連携を強化し、AI半導体の「後工程」で競争力の向上を目指す。
注目すべきは、サムスンがなぜ日本、そして横浜を研究開発の拠点に選んだのかという点です。AI半導体では、複数のチップを高密度に接続する先進パッケージングが性能を左右する重要技術になっており、装置・材料に強みを持つ日本の存在感が改めて高まっています。
本記事では、サムスンの横浜「APL」開設の概要から、日本を選んだ背景、TSMCやインテルとの後工程競争、そして日本企業・日本の半導体産業にとっての意味まで詳しく解説します。
サムスン、横浜にAI半導体の先端パッケージング拠点を開設
2026年9月8日、韓国の半導体最大手サムスン電子が横浜市みなとみらい地区で、AI半導体向けの先端パッケージング研究拠点「Advanced Package Lab(APL)」の開所式を開きました。APLでは、半導体の組み立て工程にあたる「後工程」の技術開発を、日本の半導体装置・材料メーカーなどと連携しながら進めます。
拠点整備には2024年から5年間で総額400億円が投じられる計画で、このうち日本政府が200億円、横浜市が25億円を補助します。
また、2027年までに100人以上の研究スタッフを確保する方針も示されており、サムスンが日本をAI半導体の先端パッケージング技術開発における重要拠点として位置づけていることがわかります。
なぜサムスンは日本・横浜を選んだのか?
サムスンが日本、そして横浜を選んだ背景には、半導体の後工程を支える日本企業の装置・材料技術と、研究開発を担う人材の存在があります。前工程の微細化が進む一方、AI半導体では複数のチップを一つのパッケージに集積する「先進パッケージング」が性能や消費電力を左右する重要技術となっています。
特に日本は、半導体そのものの製造では海外勢に後れを取った一方、後工程を支える装置・材料分野では高い技術力を持つ企業が集積しています。サムスンにとって横浜のAPLは、こうした日本の技術力や人材を取り込みながら、先端パッケージング分野での競争力を高めるための研究開発拠点と位置づけられます。
拠点整備の歩み — 準備開始から本格稼働まで
APLの構想自体は今回突然出てきたものではありません。2023年ごろから準備が進められ、2026年に入って本格稼働に至ったとされ、今回の開所式はその一つの節目という位置づけになります。
なぜ日本なのか?「後工程先端国」としての存在感
サムスンが日本、しかも横浜を選んだ理由として注目されるのが、半導体の組み立て工程で使われる装置や材料の分野で、日本企業が高い競争力を持っていることです。前工程(回路形成)の微細化が物理的な限界に近づくなか、複数のチップを一つのパッケージにまとめる「先進パッケージング」技術が、AI半導体の性能を左右する新たな主戦場になりつつあります。
この分野で日本の技術力と人材の厚みが、海外の半導体大手を引き寄せる要因になっています。半導体そのものの製造では海外勢に後れを取ったとされる日本ですが、後工程を支える部材・装置の領域では今なお存在感を保っており、その強みを取り込みたい海外企業にとって、日本は重要な技術パートナーになっています。
みなとみらい地区には、産学官連携によるイノベーション拠点としての位置づけもあり、エレクトロニクス関連企業の研究開発拠点が集積しています。優秀な技術者を確保しやすい首都圏という立地条件も、横浜が選ばれた理由の一つとされています。
「AI半導体は一社では戦えない」— 日韓連合という新構図
今回の開所式が持つもう一つの重要な意味は、AI半導体を巡る競争構造そのものの変化だ。これまで半導体競争は、企業単位の競争として語られることが多かった。しかし現在は、企業単独ではなく、国境をまたいだ企業連合どうしがしのぎを削る時代に移りつつある。
サムスンと日本企業の連携は、その典型例といえる。かつて日本と韓国の半導体メーカーは、メモリー市場などで激しく競い合う関係にあった。その両者が、AI半導体という新しい戦場では手を組む側に回ったという事実は、業界の勢力図がいかに大きく塗り替わっているかを物語っている。
背景には、米中対立の激化により半導体のサプライチェーンを自国・同盟国側で確保する必要性が高まっていることや、TSMC一強とも言われる後工程分野で対抗軸を作りたいという各社の思惑がある。
TSMCとの後工程格差 — サムスンが日本と組む本当の理由
サムスンが後工程分野の強化を急ぐ背景には、ファウンドリー世界最大手のTSMCとの差を縮めたいという意図があります。韓国メディアなどでは、TSMCとサムスンの競争力の差について、前工程の微細化技術だけでなく、後工程、特に先進パッケージング技術が重要な要素になっているとの見方が示されています。
メモリー半導体だけでなくシステム半導体でも世界トップを目指すサムスンにとって、後工程に強みを持つ日本企業との共同研究は、競争力を高めるための重要な選択肢になっています。
サムスンはこれまでも、複数チップを一つのパッケージに集積する技術「FOWLP」を用いた広帯域メモリーパッケージ「GDDR6W」を発表するなど、後工程分野への投資を積み重ねてきました。今回の横浜拠点は、こうした取り組みをさらに発展させ、先端パッケージング技術の研究開発と日本企業との連携を強化する拠点として位置づけられます。
横浜に集うTSMC・インテルも — 後工程拠点争奪戦の最前線
実は、日本に後工程の研究開発拠点を置いているのはサムスンだけではない。ファウンドリー世界最大手のTSMC、そして米インテルも、先進パッケージング分野の開発拠点を日本国内に設けており、日本の部材・装置メーカーとの連携を強化している。
生成AI向けを中心に複数の半導体チップを組み合わせる先進パッケージングの重要性が高まったことで、業界のビッグ3が相次いで日本に拠点を構えるという現象が起きているのだ。
この分野における日本の技術力の高さと優秀な人材が、各社を日本へ呼び寄せる求心力になっているとみられる。開発拠点にとどまらず、今後は後工程の量産工場を日本に建設する動きが出てくる可能性も指摘されており、横浜をはじめとする日本国内の拠点は、単なる研究開発の場を超えて、AI半導体サプライチェーンの結節点になりつつある。
日本企業・日本経済にとっての意味
日本政府がサムスンの拠点整備に200億円規模の補助を行っている点は見逃せません。
経済産業省も、先進パッケージング技術が今後の半導体競争力を左右する重要技術の一つと位置づけており、TSMCやサムスンなど海外大手の日本進出を後押ししています。海外半導体メーカーの研究開発拠点を国内に誘致することで、日本の装置・材料メーカーが次世代の先端パッケージング技術の開発に関わる機会を増やし、国内の半導体産業の競争力強化につなげる狙いがあると考えられます。
日本企業にとっては、世界トップクラスの半導体メーカーと先端パッケージング技術で直接連携する機会が広がります。特に、半導体製造装置、パッケージ材料、基板、接合・実装技術などの分野では、サムスンとの共同研究や技術開発を通じて、新たな事業機会につながる可能性があります。
さらに、こうした連携が進めば、日本企業がAI半導体のサプライチェーンにおいて、単なる装置・材料の供給企業にとどまらず、次世代パッケージング技術の開発パートナーとして存在感を高めることも期待されます。
まとめ — 後工程が制す次のAI半導体競争
サムスン電子による横浜拠点の開所は、AI半導体競争の主戦場が前工程の微細化から後工程の先進パッケージングへと移りつつあることを象徴する出来事だ。かつて競合関係にあった日本と韓国の半導体産業が、TSMCという共通の強敵を前に手を組むという構図は、業界の勢力図が大きく塗り替わりつつあることを示している。
今回のAPL開所はゴールではなく、日本が後工程の「先端国」としての地位をどこまで固められるかを占う、大きな試金石になりそうだ。
参考記事
- サムスンがAI半導体で日韓連合、横浜に拠点 後工程「先端国」で研究開発(日本経済新聞)
- サムスン、横浜に半導体研究拠点 日韓連携強化(共同通信/Yahoo!ニュース)
- サムスン電子 横浜にAI半導体「後工程」研究所設立=競争力強化へ(聯合ニュース/Yahoo!ニュース)
- TSMCやインテル呼び込む日本の後工程資源、サムスンは横浜で捲土重来(日経クロステック)
- サムスン電子が日本に半導体拠点新設、後工程の日韓シナジー効果に期待(日経クロステック)
- サムスン、みなとみらいの開発拠点を強化 後工程の開発加速(半導体ナビ)
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【著者】EXA-Technologies
半導体コンサルタント(半導体設計・信頼性・市場分析・営業支援)
日本、台湾の大手半導体企業での勤務経験。現在は、台湾・日本を行き来しながら、現場のリアルを伝えています。


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