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台湾・台北では現在、アジア最大級のIT展示会「COMPUTEX 2026」が開催されている。今年も会場の主役は間違いなくNVIDIA CEOの黄仁勳(Jensen Huang)氏だ。
基調講演には世界中のメディアや投資家が集まり、黄氏が訪れる企業ブースには長蛇の列ができる。台湾では「AI教父(AIのゴッドファーザー)」とも呼ばれ、その発言は企業業績や株価を左右するほどの影響力を持つ。
そんなCOMPUTEXの熱気に包まれた会場で、黄氏がMarvell CEO Matt Murphy氏との対談中に語った一言が市場を大きく揺さぶった。
「できる限り、できるだけ長く銅を使うべきだ(As much as we can, as long as we can)」
AI時代の到来とともに、データセンター業界では「光進銅退」、すなわち光通信が銅配線を置き換えるという見方が半ば常識となっている。その中で飛び出したこの発言は、市場に予想以上の衝撃を与えた。
翌日の台湾株式市場では、上詮(3363)、波若威(3163)、華星光(4979)など光通信関連銘柄が一斉に急落。特に波若威は一時的に“千金株”の座から転落するなど、投資家は「NVIDIAが光通信に慎重姿勢を示した」と受け取ったようだ。
しかし、本当にそうだろうか。
結論から言えば、この市場の反応はあまりにも短絡的だった可能性が高い。黄氏が語ったのは光通信不要論ではなく、AIデータセンターが今後どのようなネットワーク構造へ進化していくのかという極めて現実的なロードマップだった。AIインフラの未来は「銅か光か」という単純な二択ではなく、銅配線、光通信、シリコンフォトニクス、そしてCPO(Co-Packaged Optics)がそれぞれ最適な役割を担うハイブリッドな世界になろうとしている。
AI時代のボトルネックはGPUからネットワークへ移った
ここ数年のAIブームはGPUの進化とともに語られてきた。NVIDIAのH100、H200、Blackwell、そしてGB200シリーズは、生成AI革命を支える中核技術として注目を集めている。
しかし、AIモデルの巨大化が進むにつれ、業界の関心はGPU単体の性能からシステム全体の効率へと移りつつある。
現在の最先端AIクラスタでは数千から数万個のGPUが接続されている。さらに今後は10万GPU規模のAIファクトリーも現実味を帯びており、その規模ではGPU性能だけで優位性を維持することは難しい。GPU同士がどれだけ高速かつ効率的に通信できるかが、学習速度や推論性能を大きく左右するからだ。
その結果、AI業界では「Compute(計算)」中心だった競争が、「Connectivity(接続)」中心の競争へと移り始めている。
COMPUTEXでMarvellのMatt Murphy CEOが「次のAIボトルネックは接続性だ」と語ったのも、この構造変化を象徴している。AIインフラにおいてネットワークはもはや脇役ではなく、GPUやHBMと並ぶ中核技術になりつつある。
黄仁勳CEOが語った「銅を使える限り使う」の本当の意味
今回の発言で多くの投資家が見落としたのは、その発言が置かれた技術的な文脈である。
現在のAIサーバーではGPU同士の接続距離は数十センチから数メートル程度に過ぎない。このような短距離通信では、依然として銅配線が極めて有効だ。

銅配線には低コスト、低遅延、成熟した製造技術という大きなメリットがある。特にラック内部の接続では光通信よりも優位なケースが少なくない。
さらに近年はDAC(Direct Attach Copper)やAEC(Active Electrical Cable)といった高速銅配線技術が進化しており、1.6Tbps級の製品も登場し始めている。短距離通信に限れば、銅配線の技術進化はまだ終わっていない。
黄氏の発言はこうした現実を踏まえたものだ。ラック内部や同一システム内であれば、無理に光通信へ置き換える必要はないという、極めて合理的なエンジニアリング判断と言える。
一方で黄氏は、AIシステムがさらに巨大化する段階では光通信が不可欠になるとも明言している。つまり、「銅を使える場所では銅を使い、光が必要な場所では光を使う」というのがNVIDIAの基本戦略なのである。
AIファクトリー時代に不可欠となる光通信
NVIDIAが提唱する「AI Factory(AIファクトリー)」構想は、従来のデータセンターを巨大なAI生産設備として捉える考え方だ。
その世界では、単一ラック内にGPUを搭載するだけではなく、数百から数千ラックを接続した巨大な計算基盤が構築される。
こうした環境では銅配線の物理的な限界が避けられない。距離が長くなるにつれて信号減衰は大きくなり、消費電力や発熱も急激に増加するからだ。
そこで重要になるのが光通信である。
ラック間接続やデータセンター全体のネットワークでは、光通信の優位性が圧倒的だ。現在、800GbEや1.6TbE世代の光トランシーバ市場が急速に拡大している背景には、AIファクトリー化の進展がある。
NVIDIA、Marvell、Broadcom、Coherent、Lumentumといった企業が光通信分野への投資を加速しているのも、将来のAIインフラ需要を見据えているためだ。
つまり黄氏の発言は光通信不要論ではなく、「適材適所で光通信を活用する」という現実的なロードマップを示したものと理解すべきだろう。
BroadcomとMarvellが競うAIネットワーク市場
AIインフラの成長によって大きな恩恵を受ける企業として、まず挙げられるのがBroadcomである。
BroadcomはTomahawkシリーズやJerichoシリーズといった高性能スイッチ製品を展開し、大規模AIクラスタ向けネットワーク市場で圧倒的な存在感を示している。
一方でMarvellも、AI向けDSPや高速光通信技術を武器に市場シェア拡大を狙っている。近年はカスタムAIアクセラレータ向け接続ソリューションにも注力しており、NVIDIA以外のAIエコシステムにおいても重要な役割を担う存在になりつつある。
AI市場ではGPUメーカーばかりが注目されがちだが、実際にはネットワーク関連企業が次の巨大な利益機会を握っている可能性が高い。
Matt Murphy氏が「ConnectivityこそがAI時代の主役になる」と語った背景には、こうした市場構造の変化がある。
CPOがもたらす次の革命
AIネットワーク業界で現在最も注目されている技術の一つがCPO(Co-Packaged Optics)だ。
従来のネットワーク機器では、スイッチチップと光モジュールは別々に実装されていた。しかし通信速度が800Gbpsから1.6Tbps、さらに3.2Tbpsへ向かう中で、電気配線による損失や消費電力が深刻な課題となっている。
CPOはこの問題を解決するために考案された技術である。
光エンジンをスイッチやアクセラレータのパッケージ近傍に配置することで、電気信号が移動する距離を大幅に短縮できる。その結果、消費電力を削減しながら通信速度を向上させることが可能になる。
Broadcom、Marvell、NVIDIA、TSMCなどはすでにCPO開発を本格化させており、次世代AIインフラの有力な候補技術として期待が高まっている。
シリコンフォトニクスとAyar Labsが描く未来
さらにその先にあるのがシリコンフォトニクスである。
シリコンフォトニクスとは、電子回路と光回路を半導体プロセス上で統合する技術だ。従来の光モジュールを超え、チップレベルで光通信を実現することを目指している。
この分野で注目されている企業がAyar Labsだ。
Ayar Labsは光I/O技術の開発を進めており、電気配線による帯域制限や消費電力問題を根本から解決しようとしている。NVIDIAをはじめ、AMD、Intel、HPEなど業界大手が出資していることからも、その期待の高さがうかがえる。
もし光I/O技術が本格的に実用化されれば、GPUやCPU同士の接続そのものが光ベースへ移行する可能性がある。それは現在のデータセンター設計を根本から変えるインパクトを持つだろう。
NVLink Fusionが示すNVIDIAの野望
黄氏の発言を理解する上で、もう一つ見逃せないのがNVLink Fusionである。
NVIDIAは従来、自社GPUを中心とした独自エコシステムを構築してきた。しかしAI市場の拡大とともに、その戦略はより大規模なプラットフォーム構想へ進化している。
NVLink FusionはGPU、CPU、ネットワーク、メモリをより柔軟に接続し、異種チップ間の統合を促進する仕組みとして位置付けられている。
将来的にはCPOやシリコンフォトニクスとも融合し、巨大なAIクラスタ全体を単一のコンピュータのように動作させる基盤になる可能性がある。
黄氏が語った「Scale Up」「Scale Out」「Scale Across」という考え方も、このNVLinkエコシステムの延長線上にある。
まとめ:AIインフラの本当の主役は「接続」になる
今回の光通信株急落は、黄氏の発言の一部分だけを切り取った市場の過剰反応だった可能性が高い。
黄氏が語ったのは、光通信の否定ではない。むしろAIインフラが巨大化するほど、光通信、CPO、シリコンフォトニクスの重要性が高まることを前提とした上で、「使える場所では銅を使うべきだ」という現実論だった。
短距離では銅配線が残る。ラック間やデータセンター全体では光通信が主役になる。そして将来的にはCPOやシリコンフォトニクスが普及し、Ayar Labsのような企業が開発する光I/O技術が新たな基盤を形成する可能性が高い。
AI時代の競争は、もはやGPU性能だけでは決まらない。GPU、HBM、ネットワーク、光通信を含めた巨大な接続インフラこそが次世代AIの競争力を決定する。
COMPUTEXで黄仁勳CEOが語ったメッセージの本質は、「銅か光か」という単純な議論ではなく、AIファクトリー時代を支える最適な接続アーキテクチャをどう構築するかにある。その意味で、今回の台湾市場の反応は少々短絡的だったと言わざるを得ない。
出典・参考記事
- COMPUTEX 現場直擊/輝達 CEO 黃仁勳一句話 光通訊受傷
https://money.udn.com/money/story/5612/9541953 - Marvell, NVIDIA tout connectivity and optics as next frontier for AI infrastructure
https://computexdaily.com/2026/06/02/marvell-nvidia-tout-connectivity-and-optics-as-next-frontier-for-ai-infrastructure/ - Reuters: Marvell shares touch record high after Nvidia’s Huang calls it “next trillion-dollar company”
https://www.reuters.com/business/marvell-technology-surges-after-nvidias-huang-calls-it-next-trillion-dollar-2026-06-02/ - Marvell: A Deep Dive into the Copper and Optical Interconnects Weaving AI Clusters Together
https://www.marvell.com/blogs/copper-and-optical-interconnects-in-ai-cluster.html - Marvell Announces Breakthrough Co-Packaged Optics Architecture for Custom AI Accelerators
https://jp.marvell.com/company/newsroom/marvell-co-packaged-optics-architecture-custom-ai-accelerators.html - NVIDIA NVLink Fusion関連発表
- Ayar Labs公式発表・シリコンフォトニクス関連資料


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