キオクシアのストックオプションをめぐり、約600人の社員が「億り人」になったとする報道が注目を集めています。背景にあるのは、役員だけでなく、部長・課長級を含む社員にも付与された新株予約権です。
実際にキオクシアホールディングスの有価証券報告書を確認すると、2019年以降に複数回のストックオプションが発行され、付与対象者や株式数、行使価格、行使期間などを確認できます。
本記事では、有価証券報告書と報道資料をもとに、キオクシアのストックオプションがどのように社員へ付与されたのか、株価上昇によってどれほどの含み益が生じ得るのかを整理。「約600人・約700万株」という報道の数字と有価証券報告書の記載を照らし合わせながら、キオクシア社員の「億り人」が生まれた仕組みをわかりやすく解説します。
キオクシアのストックオプションが注目される理由
役員だけでなく従業員にも付与
キオクシアのストックオプションで特徴的なのは、経営陣だけを対象とした制度ではなかったことです。
2019年3月12日の決議に基づく第1回新株予約権では、当時の有価証券報告書に以下の対象者が記載されています。
| 対象者 | 人数 |
|---|---|
| キオクシアの取締役 | 1人 |
| キオクシアの執行役員・従業員 | 33人 |
| 子会社の役員・執行役員・従業員 | 584人 |
| 合計 | 618人 |
つまり、ストックオプションの対象は一部の役員だけではなく、子会社を含む幅広い従業員に及んでいました。
この点が、キオクシアの事例が一般的な日本企業の役員向け株式報酬とは異なるとして注目された理由です。
約600人に約700万株という報道
2026年6月には、キオクシアのストックオプションについて、約600人の社員に約700万株が付与されていたとの報道が相次ぎました。
別の報道では、役員を除く部課長クラスのキーパーソン約600人に、合計約680万株分のストックオプションが付与されたとする関係者の証言も紹介されています。
この数字に2026年の株価急騰を当てはめると、非常に大きな金額になります。
例えば株価を7万円、付与株数を680万株とすると、株式価値は単純計算で約4,760億円です。
さらに2026年6月22日の高値である1株11万2,700円を使って約700万株を計算すると、
約7,889億円
という規模になります。
ただし、これはあくまで株価を掛け合わせた「評価額」です。ストックオプションの保有者全員がこの金額を現金として受け取ったわけではありません。

有価証券報告書には何が書かれているのか
第1回新株予約権は約670万株
現在の株式数に換算したキオクシアの有価証券報告書を見ると、第1回新株予約権の付与数は6,703,440株と記載されています。
行使価格は1株1,667円、行使期限は2029年3月11日です。
第1回だけを見ても、約670万株という非常に大きな規模だったことが分かります。
また、第1回については、取締役1人、キオクシアの執行役員・従業員33人、子会社の役員・執行役員・従業員584人という対象者区分も確認できます。
この一次資料が、報道された「約600人」という数字を裏付ける重要な根拠になっています。
第2回以降の新株予約権も存在
キオクシアのストックオプションは第1回だけではありません。
有価証券報告書には、第1回から第10回までの新株予約権のうち、複数回分のストックオプションが記載されています。
2026年3月期の有価証券報告書では、例えば以下の付与数が確認できます。
| 回号 | 付与数 | 行使価格 |
|---|---|---|
| 第1回 | 6,703,440株 | 1,667円 |
| 第2回 | 6,407,820株 | 1,667円 |
| 第3回 | 621,060株 | 1,667円 |
| 第4回 | 163,260株 | 1,667円 |
| 第5回 | 90,480株 | 1,667円 |
| 第7回 | 289,800株 | 1,667円 |
| 第8回 | 879,780株 | 1,667円 |
| 第9回 | 579,600株 | 2,600円 |
| 第10回 | 155,280株 | 2,600円 |
このように、ストックオプション全体を見ると「約700万株」だけでは説明できない規模になります。
ただし、ここで重要なのが、「付与された株数」と「現在残っている株数」は同じではないという点です。
権利行使、失効、権利確定条件などを考慮する必要があるため、各回号の付与数を単純に合計して「現在の社員が保有する株数」とすることはできません。
なぜ「億り人」になったのか ー「あの人はもらっているのに、なぜ自分はもらえない?」
社員格差
今回のストックオプションについて、キオクシアに勤める知人から興味深い話を聞きました。
社内では、「あの人はもらっているのに、あの人はもらっていない」「あいつはもらっているのに、自分はもらっていない」といった不満や嫉妬が絶えないというのです。
特に意外なのが、管理職だからといって全員がストックオプションを付与されているわけではないという点です。
一般的には、部長や課長などの管理職になれば、一定の条件で株式報酬の対象になると考えがちです。しかし、実際には管理職であっても付与されていないケースがあるといいます。
もちろん、具体的な選定基準や個々の付与理由については、外部から確認できる情報に限りがあります。そのため、「好き嫌い」や「派閥の有無」で付与が決まっていると断定することはできません。
一方で、社内の人間関係や組織内での立ち位置まで含めて人選を見ている社員からすれば、「実力や役職だけで決まっているわけではないのではないか」と感じる余地があるのも事実でしょう。
そう考えると、東芝時代から続く企業文化や組織風土を知る人からは、「これぞキオクシア、東芝時代からの遺伝子を引き継いでいる」と感じる部分があるのかもしれません。
ストックオプションは、株価が上昇すれば非常に大きな経済的メリットを生みます。それだけに、「誰がもらったのか」「なぜ自分は対象外なのか」という人選そのものが、社員間の感情や不満につながりやすい制度でもあります。
今回のキオクシアのケースは、単に「約600人の社員が億り人になった」という話だけではありません。巨額の株式報酬を誰に配分するのかという人選が、組織内でどのような意味を持つのかという点にも注目する必要がありそうです。
※上記の社内の反応や人選に関する記述は、キオクシア勤務者から聞いた話に基づくものであり、会社の公式見解や公開資料によって確認された事実ではありません。
行使価格と株価の差が極端に大きい
ストックオプションが巨額の評価益を生み出した最大の理由は、行使価格と現在の株価に大きな差が生じたことです。
第1回などの行使価格は1株1,667円でした。
一方、2026年6月22日にはキオクシア株が11万2,700円まで上昇しました。
単純比較すると、
11万2,700円 − 1,667円 = 11万1,033円
となります。
仮に1万株のストックオプションを保有していた場合、理論上の評価益は、
約11億1,033万円
です。
もちろん、実際には行使価格の支払い、税金、権利確定状況、実際の売却価格などが関係するため、これは「税引前の理論的な評価益」です。
全員が10億円を手にしたわけではない
ここは記事を読むうえで最も重要なポイントです。
「約600人に約700万株」という数字を600人で単純に割ると、1人当たり約1万1,700株になります。
これに株価11万2,700円を掛ければ、1人当たり約13億円の株式価値になります。
しかし、実際の付与数は全員同じではありません。
役職、対象会社、付与時期などによって保有数量が異なるため、約600人全員が10億円以上の利益を得たという意味ではありません。
また、ストックオプションは株式そのものではなく、新株予約権です。権利を行使して初めて株式を取得できるため、株価が上昇したからといって、その時点で全額が現金化できるわけでもありません。
「700万株」と「1,286万株」はどちらが正しいのか
キオクシアのストックオプションを調べると、「約700万株」と「約1,286万株」という異なる数字が見つかります。
これは必ずしもどちらかが間違っているという話ではありません。
報道で使われている約680万~700万株は、主に従業員向けとして注目されたストックオプションを指す数字です。
一方、複数回の新株予約権を有価証券報告書ベースで広く集計すると、さらに大きな数字になります。
したがって、
「約700万株=キオクシアのストックオプション総数」
と理解するのは適切ではありません。
有価証券報告書を基準にする場合は、回号ごとに付与対象者、付与数、行使価格、権利確定条件、行使期限を確認する必要があります。
キオクシアの事例が示す「社員への利益還元」
キオクシアの事例で特に興味深いのは、企業価値が大きく上昇した際、その恩恵が投資家だけでなく従業員にも及ぶ仕組みが作られていたことです。
東芝メモリの買収後、キオクシアは大規模な再編と上場を経て、AI向けデータセンター需要を背景にNANDフラッシュメモリ市場で大きく存在感を高めました。
その結果、当時は将来価値が不確実だったストックオプションが、数年後には巨額の評価益を持つ権利へと変わりました。
これは単なる「株価急騰による社員の臨時収入」という話ではありません。
企業再建の段階でキーパーソンに株式価値上昇の果実を共有する仕組みを設け、それが企業価値の上昇によって大きな報酬に変わった事例として見ることができます。
まとめ|キオクシアの「億り人」は何人なのか
キオクシアのストックオプションについて、有価証券報告書と報道を突き合わせると、次の点が見えてきます。
- 2019年の第1回新株予約権では618人が対象
- 対象には取締役だけでなく、執行役員・従業員、子会社の従業員も含まれる
- 第1回の付与数は現在の株式数換算で約670万株
- 行使価格は1株1,667円
- 報道では部長・課長級を含む約600人に約680万~700万株とされる
- 2026年の株価急騰によって、ストックオプションの評価額は数千億円規模に達する可能性がある
- 一部の保有者では10億円規模の評価益が発生する計算になる
- ただし、全員が10億円を得たわけではなく、実際の利益は付与数や権利確定、行使、売却価格、税金によって異なる
- 有価証券報告書では複数回の新株予約権が確認できるため、「約700万株」をキオクシアのストックオプション総数とすることはできない
キオクシアのケースは、半導体企業の再建・上場・AI需要による企業価値上昇が、従業員の株式報酬をどこまで大きく変えるのかを示す象徴的な事例といえるでしょう。
参考記事
- キオクシアホールディングス「有価証券報告書」
- キオクシアホールディングス「株主・投資家情報」
- IRBANK「キオクシアホールディングス 有価証券報告書・新株予約権等の状況」
- 財経新聞「キオクシアのストックオプションに関する報道」
- 中央日報「社員600人が10億円の資産築く」
- Bullgaragelog「キオクシアのストックオプション分析」
【著者】EXA-Technologies
半導体コンサルタント(半導体設計・信頼性・市場分析・営業支援)
日本、台湾の大手半導体企業での勤務経験。現在は、台湾・日本を行き来しながら、現場のリアルを伝えています。


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