JASM(TSMC熊本子会社)は給与水準が高く残業代が正確に支払われる一方、評価は残業時間と台湾人上司への従順さで決まり技術的な成長は期待しにくい環境だ。日本人離職が増加する背景にはTSMCの秘密主義・責任転嫁文化・24時間対応要求がある。技術修行とキャリア形成を重視するなら、RapidusがJASMより有利だろう。
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1. JASMとは何か──急成長の裏で起きている「離職」と「現場の疲弊」
Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(JASM)は、世界最大の半導体ファウンドリである台湾TSMCの子会社として熊本県菊陽町に設立された。TSMCが過半数を出資し、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソー、そして2024年にはトヨタ自動車も参画し、日本の半導体復活の象徴として注目されている。
2024年には12/16nm FinFETおよび22/28nmプロセスの量産を開始したが、複数メディアは「稼働率が当初計画を下回り赤字」と報じている。さらに社内では日本人離職者の増加が深刻化しており、本記事ではシリーズ最終回として「給与制度と評価」「役職階層」「TSMC文化」を整理し総括する。
2. 給与と評価
JASMの給与制度は「高水準の給与」「残業代の正確な支払い」が表面的な特徴とされる。しかし実態は、残業時間の多さや上司への従順さが評価の中心であり、技術力や知識の向上とは無縁である。 実は、TSMC本社の給与体系は、固定給は低く抑え、青天井の残業代とボーナス支給となっている。
- 給与水準は新卒で同世代より高いが、やりがいを差し引くとマイナス。
- 評価は目標制度よりも「残業時間」「台湾人上司やソニー出向上司に気に入られるか」が決定要因。
- 基本は年功序列に近い。有名大学修士・博士が優遇される。
- 給与構成は基本給:残業代:賞与=2:1:1。残業代は青天井。
- 昇格条件は大量残業、愛想の良さ、24時間対応。これを満たすことでリーダー的立場に昇格できる。
3. 生の声──給与と評価の実態
- 新卒・女性
「新卒で同世代と比べると給与は高いが、やりがいを差し引くとマイナスだ。」 - 新卒社員
「目標制度の到達度によって決まるが、評価は残業が多いか、台湾人上司、ソニーからの出向上司の気に入られ方で大方決まる。」 - 中途社員
「基本年功序列。」 - 中途社員
「有名大学の修士、博士が重宝される。学歴重視。そして基本は年功序列だが、残業多い人ほど成果目標が評価される傾向。」 - 中途社員
「台湾人上司に気に入られるかどうか次第。」 - 中途社員
「年収内訳は、基本給:残業代:賞与=2:1:1。残業代は青天井なので、残業厭わない=>評価される=>残業代と賞与の比率が上がる。」 - 中途社員
「第二新卒5年目だと年収は1000万円。1年365日24時間対応を考えると割に合わない。技術知識が上がるわけではない。」 - 新卒社員
「半導体業界10~20年選手の年収は1500万以上2000万円以下。マネージャーだと2000万円到達するらしいが、中途の日本人でマネージャーになる人はほぼいない。ソニー系だけ。」 - 中途社員
「優秀と認められると、リーダー的立ち位置になりやすい。すなわち、たくさん残業して、愛想よく24時間対応できて優秀と思われると、この地獄から少しだけ早く抜け出せる。」
4. 役職階層と特徴
JASMの役職階層を見ていこう。基本は、TSMC本社に準じている。注意しておきたいのは、いわゆる部長職は、TSMCではDepartment Managerとなる。TSMC/JASMでDirectorは、部長より上にあたる。
上位階層
- Fab Director(工場長) ←台湾人
ファブ全体の責任者。台湾本社との直接ライン。 - Deputy Director(副工場長) ←日本人:ソニー系
Fab Directorを補佐し、複数部門を統括。
中間管理職
- Department Manager(部門長)
各主要部門(PID, YEDなど)の責任者。部門内の複数課を束ねる。 - Section Manager(課長)
部門内の特定領域を担当。チームリーダーを束ね、評価・採用・予算の一部責任を持つ。
現場管理職
- Manager(マネージャー)
実務チームの直接管理者。 - Deputy Manager(副マネージャー)
Managerを補佐し、サブチームを担当。
非管理職(技術職)
- Senior Engineer(主任技師)
高度な技術スキルを持ち、プロジェクトリーダー的役割。 - Engineer(技師)
実務担当。プロセス改善、設備維持、歩留解析などを実施。
JASMにおける役職の特徴まとめ
- 台湾本社主導:上位階層は台湾人が占める。
- 日本人の役割:Manager職に就いても意思決定権は限定的。
- 評価制度:台湾本社基準での査定が中心。24時間対応できる能力が昇進と賞与に直結。
- 昇格ルート:Engineer → Senior Engineer → Deputy Manager → Manager → Section Manager → Department Manager → Deputy Director → Director。
5. TSMC文化とJASMの限界
台湾12年の経験と、台湾で見てきた現実をもとにTSMC文化とJASMの限界を述べる。
5-1. 製造部門の特徴
JASMはTSMCの子会社であり、組織体系はTSMC本社の製造部門に準じている。TSMCのManufacturing部門は、台湾特有の遺伝子が具現化した業務体系であり、秘密主義と責任の擦り付け合いの典型例だ。世界で成功した企業として崇められているため、TSMCの働き方が成功例と認知されがちである。
5-2. 新卒採用と離職
TSMC本社は今年も8000人の新卒(主に修士)を採用しているが、3年以内にほぼ脱落する。仕事の進め方に耐えられないからだ。3年勤めることで1年目・2年目のボーナスがフルで支給されるため、これを受け取って辞めるケースが多い。
5-3. 徴兵免除制度との関係
台湾には徴兵制度があり、徴兵に行く代わりに国防部が指定した企業で働くことで免除される制度がある。TSMCは当然この指定企業であり、新卒にとっては「徴兵免除・TSMCネームバリュー・高収入」のセットでTSMCを選ぶ。そのため一定期間を過ぎると退職し転職するケースが多い。TSMC自体が徴兵のような職場とも言える。
5-4. R&D部門と製造部門の関係
TSMCのR&D部門は製造部門とは異なり、選ばれた人材のみが配属される。製造部門ほどブラックではなく、ここに配属されることこそがキャリア形成につながる。
R&D部門と製造部門の関係は縦割り社会そのものである。R&Dは2nm、1.8A、1.4A、1.0A、0.8Aといった最先端デバイスの基本開発を進めるが、プロセスを製造部門に移管したら最後、その後の面倒はすべて製造部門が担う。
製造部門は、歩留まりを上げるために365日24時間働き続ける。量産移管方法も独特で、統合的に移管されるのではなく、各担当がパズルのピースを渡すように引継ぎを行う。そのため隣の芝は見えず、量産プロセスで問題が発生すると責任の擦り付け合いが始まる。
5-5. 転職後の姿
TSMCを去る人たちは台湾の半導体関連企業に転職し、転職後の姿はとても輝いている。「ようやく統合的に色々なことが学べる」「ワークライフバランスがようやく実現できた」と語る。
一方、TSMCに転職する人たちは台湾の半導体関連企業で修行を積み重ねてきたため、TSMCの役職で採用される。採用時の年収は過去年収を下回ることはなく、かなりの高額が提示される。そして働きバチのようになる必要はない。
6. Rapidusとの比較
6-1. JASMの限界
JASMは所詮TSMCであり、ワークライフバランスの取れた生活や技術・経験の向上は期待できない。残業代が1分1秒まで正確に支払われるため、残業を厭わない人にとっては向いているが、それ以上の成長は望めない。
6-2. Rapidusの特徴
Rapidusは国策会社であり将来性に疑問視されることもあるが、教育体制は整っている。日本の半導体を支えてきた先輩たちからの技術承継があり、何よりも先端デバイス開発・製造を肌で経験できる。日本人上司や日本人同士と日本語でコミュニケーションできる環境も整っており、IBMからのインテリジェントな技術と知識を得られる点も大きな強みだ。
6-3. 報酬と将来性
Rapidusは現在売上がないためボーナスの支給はないが、非管理職なら残業代はきちんと支払われる。ボーナスがなくても満足いく年収が得られ、2027年以降に売上が出ればボーナスが支給される予定である。ボーナスが支給されれば、JASM同等以上の年収になる計算だ。
同じ修行を積むならば、JASMよりRapidusを選ぶべきだ。
7. 総括 ― JASMへの入社を検討している人へ
結論として、「高収入と残業代」を優先するならJASM、「技術修行とキャリア形成」を重視するならRapidusという選択になる。JASMはTSMC文化をそのまま移植した職場であり、ワークライフバランスや技術的成長を求める人には不向きだ。日本で半導体技術を磨き直したい人にとっては、Rapidusの方が長期的な価値を持つだろう。


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