中国によるタングステン輸出規制の強化が、半導体業界に新たな波紋を広げている。特にWF6(六フッ化タングステン)は3D NANDやDRAM、HBMの製造に不可欠な材料であり、供給不安や価格上昇への懸念が高まっている。本記事では、WF6供給網への影響や中国勢・韓国勢の競争環境の変化、さらにタングステンスパッタリングターゲット市場への波及について解説する。
WF6供給不安と中国タングステン規制の影響
タングステン(元素記号は”W”)は主にWF6として使用され、コンタクトプラグやビア形成、3D NANDワード線形成などに不可欠である。2026年の輸出管理強化によりWF6価格は上昇し、スポット調達依存の増加や調達先の再編が進んでいる。日本の関東電化工業やセントラル硝子も原料調達リスクを警戒しており、需給逼迫への懸念が高まっている。
一方、中国国内では中船特気(Peric)などローカルガスメーカーが供給能力を強化しており、中国メーカーは相対的に有利な状況にある。WF6不足はコスト上昇だけでなく、量産計画そのものに影響を及ぼす可能性があり、材料供給の安定性が改めて重要視されている。
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3D NANDのモリブデン移行だけでは解決しない
— CuA構造が抱えるタングステン依存
300層超3D NANDではワード線のモリブデン化が進んでいるが、周辺回路側では依然としてタングステンが必要である。CuA構造では周辺CMOS回路、コンタクトプラグ、ビア、一部配線層などでタングステン使用量が多く、これらは高温工程に晒されるため材料変更が難しい。ワード線の材料変更だけではタングステン依存を解消できない構造的な理由がここにある。
韓国メモリー勢(Samsung・SK hynix)が直面するWF6調達リスク
CuA構造を採用する韓国勢はWF61価格高騰の影響を受けやすく、調達コスト上昇や材料リスク増加が避けられない。HBMや高性能NANDへの投資が続く中、材料コストの上昇は競争力に影響を与える可能性がある。
中国勢(CXMT・YMTC)が相対的に有利な理由
CXMT:国内資源を活用したDRAM製造
DRAMではタングステン成膜が不可欠だが、中国国内の資源・材料供給網を活用できるため、海外メーカーより調達リスクが小さい。
YMTC:Xtacking構造によりタングステン使用量が少ない
YMTCはXtacking構造を採用し、セルウェハと周辺回路ウェハを貼り合わせる方式を取る。この構造により、韓国勢のCuA構造に比べて周辺回路のタングステン使用量が少なく、材料リスクが相対的に低い。国内供給網の恩恵も受けやすく、タングステン規制の影響は限定的である。
タングステンスパッタリングターゲットの供給リスク
JX金属が世界シェア50〜60%で独走
WF6だけでなく、PVD工程で使用されるタングステンスパッタリングターゲットも重要である。JX金属はWターゲット市場全体で約50〜60%、先端半導体向けでは実質トップ独走とされる。高純度タングステン粉末の調達力、HIP焼結技術、台湾を含むグローバル供給体制、そしてTSMC・Samsung・Micron・SK hynixなど主要ファブとの長年の実績が強みとなっている。
タングステン粉末供給が不安定化すれば、ターゲット供給や先端配線形成、歩留まり改善にも影響が及ぶ可能性があり、JX金属の供給戦略は世界の半導体メーカーにとって極めて重要だ。
台湾TSMCと先端パッケージングにも広がる影響
また、タングステン供給リスクの影響はメモリー分野に限らない。台湾のTSMCをはじめとする先端ロジックメーカーや、CoWoSなど先端パッケージングを担うASE、SPILといった企業もタングステン材料の安定供給を必要としている。特に先端ロジックではコンタクトプラグやビア形成などでタングステンが広く使用されており、供給不安が長期化した場合には調達先の多様化や代替材料の採用が加速する可能性がある。
まとめ
① タングステン規制が突きつけた材料リスクの現実
中国が世界生産の約8割を握るタングステンを輸出規制したことで、WF6やスパッタターゲットを含む材料供給網全体が揺らぎ始めている。特にWF6は代替が難しく、価格上昇やスポット依存の増加がメモリー各社の調達戦略を直撃している。
② NAND・DRAMメーカーの構造的脆弱性と中国勢の優位性
3D NANDではワード線のモリブデン化が進んでいるものの、CuA構造の周辺回路では依然としてタングステン依存が強く、韓国勢は材料コスト上昇の影響を受けやすい。一方、YMTCはXtacking構造によりタングステン配線の使用量が少なく、CXMTも国内供給網を活用できるため、中国勢は相対的に有利な立場にある。
③ ロジック分野にも波及する可能性とTSMCの材料転換
今回の規制はメモリーだけでなく、先端ロジックにも波及する可能性がある。チャイナリスクを強く意識するTSMCでは、配線やコンタクト周りのタングステンをモリブデンへ置き換える動きが加速する可能性があり、材料選択そのものが競争力の源泉となりつつある。今後の半導体競争では、プロセス技術だけでなく、材料調達力とサプライチェーンの強靭性が企業の優位性を左右する時代に入っている。
④ 台湾TSMCと先端パッケージングにも波及する影響
台湾のTSMCや先端パッケージング各社も無関係ではない。
先端ロジックでは依然としてタングステンが重要材料であり、中国の輸出規制が長期化すれば、調達先の多様化やモリブデンなど代替材料への転換が加速する可能性がある。今回の問題はメモリーにとどまらず、台湾を中心とする世界の半導体サプライチェーン全体に対する警鐘とも言える。
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参考記事
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- Reuters Tungsten Rises to Record Highs as Export Curbs Turn Up Supply Heat
- Nikkei Asia US tungsten scrap exports to Japan soar on Chinese curbs
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- LDeepAI WF6 Sourcing Crisis: Market Analysis & Semiconductor Supply Chain Risks 2026
- Tungsten Hexafluoride (WF6) Shortage: The Hidden Crisis Threatening AI Semiconductor Supply
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- WF6: タングステンCVDの代表的なプリカーサーだが、歩留まりと信頼性向上のために、フッ素フリーのプリカーサーが最近では使用されている。 ↩︎


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