Appleが2026年4〜6月期に過去最高益を更新したにもかかわらず、株価は急落しました。その背景には、TSMC(台積電)の先端半導体供給不足やAI需要の急拡大によるDRAM価格高騰など、半導体サプライチェーン全体を揺るがす構造的な問題があります。AppleはIntelファウンドリ活用や中国の長鑫存儲技術(CXMT)製DRAMの調達検討など、供給網の再構築を進めています。
本記事では、好決算でも市場が厳しい評価を下した理由を軸に、TSMC(台積電)の供給制約、AI時代のメモリー市場の変化、iPhoneへの影響、そして今後の半導体業界の展望まで詳しく解説します
Appleの2026年4〜6月期決算、過去最高益でも株価は乱高下
Appleが2026年7月30日に発表した4〜6月期決算は、純利益が前年同期比27%増の297億8,900万ドル、売上高は16%増の1,094億1,700万ドルと、いずれも過去最高を更新しました。主力の「iPhone」は前年発売の「17」シリーズが好調で、売上高は22%増の542億ドルに達しています。
ところが好決算にもかかわらず、株価は米国時間外取引で一時8%下落しました。原因は、利益率の高いサービス部門(App Storeなど)の売上高が12%増の307億ドルにとどまり、市場予想平均の314億ドルに届かなかったことに加え、経営陣が決算説明会で半導体供給の逼迫が今後さらに深刻化すると説明したためです。
さらに翌31日には、7〜9月期の売上高見通しが市場予想を下回ったことを嫌気し、Apple株は一時前日終値比10%安(終値ベースでは7%安)まで急落しました。この下落によって、直前に時価総額で世界首位に立ったばかりのAppleは、再びトップの座を明け渡す結果となっています。
なぜ7〜9月期の業績見通しは市場予想を下回ったのか
iPhone・Mac・iPadに広がる供給制約
Appleが示した7〜9月期の増収率計画は9〜11%増で、事前の市場予想平均(12%増)を下回りました。iPhoneの成長率も「10%台半ば」と、4〜6月期の22%から大きく鈍化する見通しです。
経営陣は、7〜9月期には半導体供給の逼迫がiPhoneだけでなくMac、iPadにも広く及ぶと説明しています。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は決算説明会で、メモリー価格の上昇が9月以降も続くとの見通しを示しました。実際にAppleは6月、Mac・iPadなどの世界販売価格をすでに引き上げています。
サービス部門の成長鈍化と為替の逆風
供給制約に加え、モバイルゲーム市場の低迷やApp Storeのビジネスモデル変更を背景にサービス部門の成長も鈍化しています。為替変動の影響も、7〜9月期のサービス部門売上成長率を前四半期比で押し下げる要因になるとみられています。
構造的要因①:TSMC(台積電)の先端半導体キャパ不足とCoWoSボトルネック
AppleのiPhoneやMacに搭載される半導体は、自社設計・TSMC(台積電)への生産委託という体制がとられています。しかし、そのTSMC(台積電)の生産能力そのものが、猛烈なAI需要の伸びに追いついていません。
TSMC(台積電)は2026年第1四半期決算で、新台湾ドルベースの売上高が前年同期比35.1%増、粗利益率も58.8%から66.2%へ上昇するなど、AI関連需要を確実に収益へ結びつけています。一方で、この供給能力不足は、シリコンウエハーを半導体チップにする前工程よりも、完成したチップを実装する後工程パッケージング(CoWoS)に集中していると指摘されています。TSMC(台積電)は後工程の生産ラインを増強し続けてきましたが、AI需要の伸びがそれを上回っているのが実情です。
この状況を受けてTSMC(台積電)は、設備投資額を従来発表よりさらに積み増す方針を4〜6月期の決算説明会で示すとともに、先端ロジック品の値上げも発表しました。台湾中部科学園区(中科)二林園区では、TSMC(台積電)グループとASE Technology Holding(日月光投控)傘下のSPIL(矽品精密工業)が、CoWoS関連の先進パッケージング・テスト新工場に相次いで投資しており、累積投資額は1,000億台湾元を突破する見通しです。
NVIDIAとAppleでは「力関係」が異なる
TSMC(台積電)の限られた生産キャパを、AppleとNVIDIAなど複数の大口顧客が奪い合う構図になっています。NVIDIAは、AI需要を背景に「GPUを作ればいくらでも売れる」状況にあるため、値上げを受け入れてでも生産枠を確保できる強い立場にあります。これに対しAppleは、消費者向け製品の価格転嫁に制約があることもあり、TSMC(台積電)の生産キャパの奪い合いでは相対的に不利な立場に置かれていると見られています。
Appleの対応策①:Intelファウンドリ活用検討という選択肢
TSMC(台積電)への一極依存を避けるため、Appleはインテル(Intel)への生産委託拡大を模索していると複数のメディアが報じています。2026年5月には、Appleとインテルが将来のチップ製造をめぐる予備合意に達したとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じ、この報道を受けてインテル株が急騰しました。Appleはサムスン電子のテキサス州新工場の視察も行っており、TSMC(台積電)に次ぐ「第2の選択肢」を複数確保しようとする動きがうかがえます。
背景には、TSMC(台積電)の最先端プロセスが台湾政府の意向もあって台湾域内での生産が優先されており、米国内で最先端プロセスの半導体を製造しようとすると、選択肢がインテルなど限られた企業に絞られるという地政学的な事情もあります。
構造的要因②:AIデータセンター向けシフトが招くDRAM品薄
半導体不足はロジック半導体(TSMC(台積電)の先端プロセス)だけでなく、パソコンやスマートフォンで使う汎用DRAMにも及んでいます。AIデータセンター向けの高性能DRAM(HBMなど)の方が収益性が高いため、サムスン電子やSKハイニックス、マイクロン・テクノロジーといった大手メモリーメーカーが生産体制をAI向けにシフトさせており、その結果としてパソコンやスマートフォン向けの汎用DRAMを十分に生産できない状況が生まれています。
中国メモリー企業の攻勢
この「汎用DRAMの空白地帯」を突いて攻勢をかけているのが、中国の長鑫存儲技術(CXMT)です。長鑫存儲技術(CXMT)は、サムスン電子・SKハイニックス・マイクロン・テクノロジーに次ぐ世界第4位のDRAMメーカーに成長しており、DUV(深紫外線)露光技術のみで開発した16nm世代プロセスでDDR5・LPDDR5X品の量産を進めています。足元ではサーバー向けDDR5 DRAMの価格がサムスン電子製を上回る異例の逆転現象も報じられており、DRAM市場の勢力図が急速に塗り替わりつつあります。
Appleの対応策②:中国製DRAM調達をめぐるロビー活動とリスク
メモリー価格の高騰に対処するため、Appleは中国の長鑫存儲技術(CXMT)や長江存儲科技(YMTC)からのメモリー調達を可能にするよう、トランプ政権に働きかけていると報じられています。長鑫存儲技術(CXMT)は米国防総省のブラックリストや商務省エンティティリストに関連する企業とされており、安全保障上のリスクを懸念する米議会からの反発も強まっています。
ティム・クックCEOは決算説明会で「サプライヤーが増えればAppleには好ましい」と述べ、調達先の多様化に意欲を示しました。報道によれば、Financial Timesは長鑫存儲技術(CXMT)製DRAMの技術検証がすでに始まっていると伝えており、Appleは当面、中国国内向け製品への採用に限定することで政治的な論争を最小化しつつ、サムスン電子・SKハイニックス・マイクロン・テクノロジーとの価格交渉力を高める狙いがあるとの見方も出ています。
今後の見通し:供給逼迫はいつまで続くのか
Appleは7〜9月期にかけて供給制約がさらに拡大するとの見通しを示しており、9月発売が見込まれる新型iPhoneの価格にも影響が及ぶ可能性が指摘されています。SKハイニックスは2026年7月、2027年が半導体業界史上最悪の供給不足の年になり得ると予測しました。一方でBloomberg Intelligenceは、新規生産能力の稼働により2028年までに状況が緩和する可能性があるとの見方を示していますが、これは現時点では少数派の見解です。
なお、Appleは2026年9月1日付で、ハードウエアエンジニアリング担当のジョン・ターナス上級副社長が新CEOに昇格する人事を発表しています。クック氏にとって最後の決算説明会となった今回、半導体供給網の再構築という重い課題は、そのまま新体制へと引き継がれることになります。
まとめ:半導体サプライチェーンの主導権争いが業界地図を変える
Appleの株価乱高下は、単なる一企業の業績変動ではなく、AI需要が牽引する半導体サプライチェーン全体の力学の変化を映し出しています。TSMC(台積電)の先端ロジック半導体を巡ってはNVIDIAとの奪い合いが続き、DRAM市場では中国の長鑫存儲技術(CXMT)・長江存儲科技(YMTC)が急速に存在感を高めています。
Appleがインテルへの生産委託拡大や中国製メモリーの調達解禁を模索する動きは、こうした構造変化への対応策と位置づけられ、2027年以降の半導体業界の勢力図を左右する重要な変数になりそうです。
参考記事
- Apple株一時10%安、売り上げ予測に失望 半導体不足が重荷(日本経済新聞)
- Apple4〜6月最高益 半導体不足で成長鈍化、株価一時8%安(日本経済新聞)
- 【決算分析】米アップルの4-6月期は過去最高も株価下落―Mac供給不足と次期見通しが重荷に(財経新聞)
- Apple好決算も株価急落〜供給制約とサービス成長鈍化を懸念(iPhone Mania)
- Appleが中国半導体メーカーCXMTのメモリチップをテスト中、アメリカ政府に利用容認を働きかけか(GIGAZINE)
- Apple、米国防総省ブラックリスト掲載の中国CXMT・YMTCとメモリ購入交渉(BigGoファイナンス)
- Apple、米インテルと半導体の生産委託で暫定合意 WSJ報道(日本経済新聞)
- アップル、プロセッサー製造でインテルとサムスン採用検討-関係者(Bloomberg)


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