キオクシア・サムスンの相次ぐ2D NAND撤退により、車載・産業向けの供給不足が2026年以降に深刻化している。台湾UMCは力旺電子(eMemory)のIPと日本USJC工場を組み合わせ、2026年下半期の試作を経て2027年から量産開始を予定。地政学リスク分散と長期安定供給を両立するファウンドリ新戦略の全容を解説する。
1. なぜ今、UMCが2D NANDを作るのか
台湾の半導体受託製造大手・聯華電子(UMC)が、日本の12インチ工場「USJC(旧富士通三重工場)」で2D NAND型フラッシュメモリを量産する計画が明らかになった。台湾・経済日報が2026年4月22日に報じ、Bloombergも同日に追随した。
UMCといえば、28nm〜40nm台を主戦場とするロジックファウンドリの代表格であり、メモリ量産とは距離があるように見える。しかし今回の動きには明確な市場背景がある。大手NANDメーカーが相次いで2D NANDから撤退し、車載・産業向けの供給が急速に細っているためだ。
2. 「2D NAND」とは何か、なぜ今も必要なのか
NAND型フラッシュメモリには、2D(プレーナ型)と3D(積層型)がある。現在の主流は3D NANDだが、2D NANDは車載機器・産業機器・組み込みシステムの世界で依然として不可欠な存在だ。理由は明確で、高い信頼性と長期供給保証(10年以上)が求められる用途に最適だからである。
SLC(シングルレベルセル)やMLC(マルチレベルセル)といった2D NANDは、スマートフォンやPCではなく、自動車のECU、工場の制御装置、医療機器など、停止が許されない領域で使われている。こうした用途では3D NANDへ切り替えると安全規格の再認証が必要になり、製品ライフサイクルが長期化するため、2D NANDの需要は根強い。
3. キオクシアとサムスンの撤退が生んだ「供給の崖」
2026年、この市場に大きな変化が起きた。
キオクシア(旧東芝メモリ)が、2D NANDおよびBiCS FLASH第3世代の段階的終了を顧客に通知した。
最終受注は2026年9月30日、最終出荷は2028年12月31日。32nm SLC、24nm MLC/SLC、15nm MLC/TLC、64層BiCS3といった製品群が、2029年には市場から完全に姿を消す。
さらにサムスンも2026年初頭に2D NAND生産を停止。これにより、大手NANDメーカーで2D NANDを維持する企業は事実上ゼロとなった。
TrendForceの予測では、2026年のMLC NAND供給量は前年比41.7%減。長年車載・産業向けを支えてきた「24nm SLC」という基盤が消滅しつつある。
4. 残存サプライヤーの実力と限界
大手撤退後、2D SLC/MLC NANDを供給できるメーカーは限られている。現実的な選択肢は以下の4社だ。
| メーカー | 技術ノード | 信頼性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| Macronix(台湾) | 19nm | ★★★★★ | 車載・産業 |
| SkyHigh Memory(韓国) | 19nm | ★★★★☆ | 産業・通信 |
| GigaDevice(中国) | 19nm | ★★★★☆ | 組込み・産業 |
| Winbond(台湾) | 43/32/24nm | ★★☆☆☆ | 民生・低価格 |
車載・産業向けの代替として現実的なのは19nm世代を持つ上位3社であり、Winbondはノードの古さや性能面から本格的な代替にはなりにくい。
しかし、それでも需要を満たすには不十分だ。日本の大手メモリメーカーが台湾ファウンドリに協力を求めた背景には、この供給不足がある。
5. UMCの戦略:「周辺回路IP+NANDプロセス統合」という新モデル
今回の報道によれば、UMCは台湾・力旺電子(eMemory)のOTP/MTPなどの組み込みNVM IPを採用し、2D NAND製品に必要な周辺回路(トリミングデータ格納、セキュリティキー、電源管理など)を構成する。
ここで重要なのは、eMemoryはNANDセルアレイのIPを提供していないという点だ。
NANDセル構造(Floating Gate/Charge Trap)やプロセス開発はUMC側が担当し、eMemoryは周辺回路に必要なNVM技術を提供するだけである。
UMCはこれまでも40nm・55nm・28nmプラットフォームで組み込みフラッシュ(eFlash)の製造経験を積んできた。今回の協業は単なるウェーハ受託ではなく、周辺回路IPとUMCのNANDプロセスを統合し、立ち上げ期間を短縮する新しいモデルと位置づけられる。
生産は日本の12インチ工場・USJCで行われる。USJCは富士通三重工場を前身とし、車載向け品質管理と成熟製程の両方に強みを持つ。45/40nmクラスのMLC NANDに適した設備を備えており、今回の用途に最適とみられている。
スケジュールは2026年下半期にパイロット生産、2027年から量産開始の予定だ。
USJC(旧富士通三重工場)とは
USJC(United Semiconductor Japan Co., Ltd.)は、三重県桑名市に位置する旧富士通三重工場を前身とする12インチ半導体製造拠点である。富士通時代には、DRAM、DRAM混載ロジック、NANDフラッシュ、NORフラッシュといった幅広いメモリ製品の開発・量産を手がけてきた実績を持つ。
特に、DRAMおよびフラッシュメモリの製造ラインを長年運用してきた経験から、メモリ特有のプロセス管理・歩留まり改善・信頼性評価のノウハウが蓄積されている点が大きな強みとなっている。
そのため、今回UMCが2D NAND(SLC/MLC)の量産拠点としてUSJCを選んだ判断は合理的であり、既存の成熟製程と品質管理体制を活かすことで、スムーズな立ち上げが可能とみられる。
6. 地政学的リスクが後押しする「日本生産」の意義
今回の協業で注目すべきは、日本国内での生産という地理的選択である。報道によれば、日本の大手メモリメーカーは長期供給の安定性と地政学的リスク分散を重視し、台湾一極集中を避けるための代替生産拠点としてUMCを選んだとされる。
台湾海峡の緊張が調達戦略に影響を与えるようになった今、日本国内での半導体製造能力の確保は企業にとって重要性を増している。
7. UMCにとっての意味:「成熟製程ファウンドリ」の新章
UMCは今年下半期から成熟製程の代工価格を引き上げる方針を示している。ここにメモリ新事業が加わることで、事業ポートフォリオの多角化が進む。台湾の半導体産業史上、日本での記憶体製造は今回が初とされ、業界の注目度は高い。
ロジックファウンドリが2D NANDという「旧世代の空白」を埋める動きは、単なるニッチ戦略ではない。大手撤退後のロングテール需要を、成熟製程で効率的に取り込む合理的な判断である。
8. まとめ
- キオクシア・サムスンの撤退で、車載・産業向け2D NANDの供給が急減
- 2026年のMLC NAND供給量は前年比大幅減の見通し
- UMCはeMemoryの周辺回路NVM IPとUSJC工場を組み合わせ、2026年下期試作・2027年量産へ
- 日本メーカー側は地政学リスク分散と長期供給確保を重視
- 残存サプライヤーだけでは需要を賄えず、UMC参入は市場安定化に寄与する可能性が高い


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