HBMや先進3D NANDへの生産シフトが進む一方で、成熟ノード製品であるNORフラッシュとSLC NANDの供給不足が深刻化している。TrendForceによると、両製品の契約価格は2026年上半期だけで100%超上昇し、2026年下半期(2H26)も高騰が続く見通しだ。本記事では、価格上昇の背景と今後の見通し、調達担当者が取るべき対応策を詳しく解説する。
1H26で契約価格が2倍超に ― TrendForceが示す衝撃のデータ
TrendForceの発表によると、主要メモリメーカーはHBMや先進レイヤーの3D NANDといった高付加価値製品への生産能力配分を優先し続けており、その結果としてNORフラッシュとSLC NANDの成熟ノード生産能力が圧迫されている。安定した需要を背景に、両製品カテゴリーの累計契約価格上昇率は2026年上半期に100%を超えた。
NORフラッシュはいち早く納期の長期化と割当制の対象となった製品で、1H26の平均契約価格は100〜120%上昇したと推定され、高容量品ではさらに大きな上昇が見られた。
SLC NANDは、複数の国際サプライヤーが低容量・成熟ノード品から段階的に撤退したことで供給が大きく縮小し、産業・車載・ネットワーク機器の顧客が在庫の積み増しに動いたことで、第2四半期には予防的な調達の波が顕著に発生した。その結果、SLC NANDの平均価格は1H26に130〜150%という、NORフラッシュを上回る上昇幅を記録したとみられる。
他の業界レポートも同様の構図を裏付けている。Utmelの分析では、主要ファブが成熟プロセスの拡張を避けているため、NORフラッシュやSLC NANDのような成熟ノード製品が深刻なボトルネックに直面しており、2026年上半期だけで契約価格が100〜150%上昇したと指摘されている。
なぜNORフラッシュとSLC NANDが狙い撃ちされるのか
NORフラッシュ:車載電子化とエッジAIが押し上げる「代替不可能」な需要
TrendForceは、NORフラッシュの中核価値はXIP(Execute-in-Place、コード実行機能)と高信頼性にあると説明する。先進運転支援(ADAS)やスマートコックピットの高度化に伴い、車載電子機器におけるファームウェア容量の要求は急速に拡大しており、高密度NORフラッシュの重要性が増している。
さらに、
- エッジAIデバイスでは、従来は数十メガバイト程度で済んでいたファームウェア容量がAIモデルのローカル実装によって数倍に膨らんでおり、256Mb以上の高密度NORフラッシュへの需要を強く押し上げている。
- 産業制御システムや衛星通信、航空宇宙機器といった分野では、信頼性の高さゆえにNORフラッシュが依然として代替困難であり、安定的かつ高マージンな需要基盤を形成している。

SLC NAND:高信頼性・長期データ保持で代替不可能な地位を確立
SLC NANDは、優れたプログラム/イレーズ耐久性、極めて低いエラー率、長期的なデータ保持性能、そして広い動作温度範囲により、多くの高信頼性用途で依然として第一選択の記憶技術となっている。スマート工場やロボティクス、自律移動機器、ハイエンドのネットワークスイッチにおける推論AIの普及も、高信頼性ストレージへの需要をさらに強めている。
用途面では、エンタープライズサーバーやデータセンターがOSブートドライブや書き込み負荷の高いバッファ用途にSLC NANDを使い続けているほか、医療画像機器や防衛関連電子機器、航空宇宙システムなど、データの完全性が事業継続に直結する分野ではSLC NANDが依然として代替不可能な位置を占めている。
2H26の価格見通し ― 高密度NORは60〜65%、SLC NANDは70〜75%の上昇へ
TrendForceは、2026年下半期も主要サプライヤーがプロセス移行や歩留まり改善、ウェハ出力の最適化に注力し、大幅な生産能力拡張には踏み切らない見通しであると分析する。この結果、長期供給サイクルを前提とする車載・産業向け用途では、長期化する供給不足のリスクが一段と高まると予測されている。
品目別の見通しは次の通りだ。
- 高密度NORフラッシュ:車載電子機器やエッジAI向け需要の継続的な成長を追い風に、2H26にさらに60〜65%以上の値上がりが見込まれる。一方、低密度品は中国系サプライヤーからの供給増加により上昇ペースが緩和し、一部セグメントでは価格が安定化に向かう可能性がある。
- SLC NAND:大半の製品で需要の伸びは比較的緩やかなものの、供給の減少傾向が続いているため、2H26も平均で70〜75%程度のさらなる価格上昇が続く可能性がある。特に産業グレード・車載グレード品ではより強い価格上昇圧力が生じる見通しだ。
また、主要サプライヤーは今後、積極的な値上げのみに頼るのではなく、長期契約(LTA)や選別的な受注戦略を通じて需給を管理する傾向を強めるとみられ、供給保証と顧客関係管理が価格戦略と同様に重要性を増している。
「一時的な逼迫」ではない ― 他レポートが裏付ける構造的な危機
今回のNORフラッシュ・SLC NAND高騰は、単発の需給ミスマッチではなく、メモリ業界全体を覆う構造変化の一部として捉える必要がある。ストレージ業界の分析サイトStorage Swissは、DRAMとNAND型フラッシュは一時的な不足ではなく、2027年まで価格高止まりが続く構造的な生産能力再配分の局面に入っていると指摘する。新規ファブ投資による意味のある供給増加は早くても2027年後半以降になる見込みで、その優先配分もHBMやエンタープライズ向け製品に向けられる可能性が高いという。
DIGITIMESも、2026年第2四半期のNORフラッシュ契約価格が前四半期比で40〜50%上昇する見通しであり、一部製品ラインでは顧客が供給確保のためプレミアム価格を払う姿勢を見せていると報じている。この動きは、TrendForceが示す2H26見通しとも整合的だ。
サプライチェーン向けの分析を行うelinforも、複数のサプライヤーが2026年分の見積もりを一時停止し、生産能力配分の見通しが立つまで価格提示を保留していると指摘しており、調達側からすれば実質的に市場から締め出されている状況に近いと表現している。同レポートは、自動車分野では最新車両が1台あたり100GB以上のフラッシュストレージを搭載するようになっており、電気自動車の生産拡大とともに車載NAND需要が循環的ではなく構造的に拡大していると分析する。
調達・設計担当者への影響と対応の方向性
NORフラッシュ・SLC NANDは、スマートフォンやPCのような短サイクル製品ではなく、車載ECU・産業機器・医療機器・防衛/航空宇宙機器など、10年単位の長期供給が前提となる分野で使われる点が特徴だ。TrendForceの分析が示す通り、主要サプライヤーが容量拡張よりも長期契約と選別受注を重視する方向に舵を切りつつある以上、実務的には以下のような対応が現実的な選択肢となる。
- 長期供給契約(LTA)を早期に締結し、価格・数量の両面で調達の予見可能性を確保する
- 単一サプライヤーへの依存を避け、代替可能な供給元を複数確保しておく
- 製品設計の段階で、より入手性の高いメモリ構成へ切り替える余地を検討する
- 高密度NORフラッシュやSLC NANDが必要な用途では、2H26にかけての追加値上がりを前提に予算を再設計する
まとめ
TrendForceの最新調査は、NORフラッシュとSLC NANDが「AIメモリブームの陰で割を食う成熟ノード製品」の代表例であることを改めて浮き彫りにした。1H26だけで100%を超える価格上昇を記録した両製品は、2H26もそれぞれ60〜75%程度のさらなる上昇が見込まれており、供給不足は一時的な現象ではなく、HBM・先進3D NANDへの生産能力シフトという構造的な要因に根差している。車載・産業・医療といった長期供給が前提の分野に関わる企業にとっては、価格動向を注視しつつ、早期の長期契約締結とサプライヤー分散を進めることが、今後数年間のリスク管理の鍵となりそうだ。
参考記事
- Contract Prices Surged More Than 100% in 1H26; Structural Shortages to Keep NOR Flash and SLC NAND Prices Rising in 2H26, Says TrendForce
- The 2026 Memory Super-Cycle: Navigating the 500% Surge in DRAM and NAND Flash Prices
- Memory and Flash Prices Are Not Coming Down (Through 2027)
- AI upgrades intensify high-capacity NOR Flash shortages; SLC and MLC become scarce commodities
- NAND Flash Prices Are Surging in 2026 — What It Means for Your Supply Chain and How to Prepare
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