サムスン(Samsung)が車載メモリでマイクロンを抜き、首位に——AIが火をつけた半導体争奪戦

サムスン(Samsung)が車載メモリ市場でマイクロンを初逆転 半導体メモリ

自動車のAI化が加速するなか、車載メモリ市場で歴史的な転換が起きつつある。2025年、サムスン電子が長年トップだったマイクロンを初めて抜き首位に立った。しかし、この逆転劇の背景には単なるシェア争いでは語れない構造変化がある。AIサーバー向けHBMへの投資集中が、車載向けメモリの供給に新たな不安をもたらし始めているのだ。

このシェア逆転は偶然ではない。背景には、中国市場の急拡大と高性能メモリ需要の変化がある。

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シェア逆転の内幕:中国市場と高性能品が鍵

S&Pグローバル・モビリティのデータによれば、サムスンの車載メモリ市場シェアは2024年の35%から2025年には40%へ拡大。一方、長年トップに君臨してきたマイクロンは40%から36%へ後退した。

サムスンが市場を切り崩せた要因は大きく二つある。

① 中国市場での急拡大
EVとインテリジェント・ビークルの普及が世界最速ペースで進む中国において、サムスンは存在感を急速に高めた。テスラ、クアルコム、ボッシュ、デンソーといった主要顧客への納入実績も、グローバルでのシェア拡大を後押しした。

② 高性能・大容量メモリへの需要シフト
自動運転システムの普及やインフォテインメントの高度化に伴い、LPDDR(低消費電力DRAM)やUFS(ユニバーサル・フラッシュ・ストレージ)など高性能品の需要が急増。サムスンはこの分野で先行優位を持つ。

サムスンが車載半導体に本格参入したのは2015年。当時はインフォテインメント向けの低消費電力メモリが中心だったが、その後LPDDR5X・車載SSD・グラフィックスDRAM(GDDR)へと品揃えを拡充し、2020〜2025年の5年間で年平均40%超という驚異的な売上成長を達成した。

Automotive memory Samsung vs. Micron
出典: S&P Global Mobility, cited by Yonhap News Agency; compiled by DIGITIMES Asia, June 2026.

車1台あたりのメモリ搭載量、2030年に4TBへ

市場成長の根底にあるのは、クルマそのものが「動くコンピューター」へと変貌しつつあるという現実だ。

  • 2024年:普通乗用車の平均メモリ搭載量は約90GB
  • 2026年:約278GBに拡大(EE Times推計)
  • 2030年:約4TBに達する見通し(業界予測)

ロボタクシー(自動運転タクシー)に至っては、200GB超のDRAMが必要とされ、これは一般的な乗用車の20〜30倍に相当する。レベル3・レベル4の自動運転システムでは300GB超のDRAMを使用するケースもあり得るという。

また、EU一般安全規制(GSR)の施行により欧州向け新車にはインテリジェント速度支援・高度緊急ブレーキ・車線維持機能などの搭載が義務化され、電子部品のメモリ需要をさらに押し上げる。

車載メモリ市場全体の規模も、2025年の約74億ドル(S&Pグローバル)から2030年には125億ドルへ、CAGR 11.1%で成長すると予測されている。これは自動車半導体全体の成長率(7.8%)を大きく上回るペースだ。

AIが引き起こす「第二の半導体ショック」

車載メモリ需要が高まる一方で、供給サイドには深刻な懸念が生まれている。原因はAIサーバー向けHBMの急拡大だ。

2026年、HBMはDRAMウエハー全体の23%(2025年は19%)を消費すると推計されている。HBMは通常のDRAMと比べてウエハー面積を大幅に使う一方、利益率は3〜5倍に達する。メーカーにとって「稼げる製品」に資源を集中させるのは合理的な判断であり、その結果としてコモディティDRAMの供給は逼迫した。

価格高騰が現実に

2026年初頭時点で、車載向けLPDDR4やDDR4などの旧世代メモリ価格は前年比約70%上昇。TrendForceは2026年第2四半期の通常DRAMの契約価格が前四半期比58〜63%上昇すると予測しており、KATECHは場合によって70〜100%の上昇もあり得るとしている。

今回のショックが過去と異なる点

2021年の半導体不足はパンデミック由来のロジスティクス混乱が主因で「一時的な危機」だった。しかし今回は構造が異なる。

  • AIインフラへの需要は一過性ではなく、成長が続く構造的なもの
  • HBMはコモディティDRAMと同じファブで製造されるため、AIブームが長引くほど車載向け供給は圧迫される
  • 自動車産業のDRAM市場シェアは全体の10%未満であり、データセンター顧客と比べて価格交渉力が弱い

ガートナーのアナリスト山路雅常氏は「自動車メーカーが車両機能をダウングレードすれば、ボトルネックを別の場所に移すだけで過剰発注を誘発しかねない」と警鐘を鳴らす。

車載メモリが「戦略資産」になる時代

サムスンとSKハイニックスにとって、車載メモリは単なる収益の多角化手段ではなくなりつつある。一度認定(クオリフィケーション)を取得したサプライヤーは容易に交代させられず、長期供給契約が一般的な車載市場は、メモリのダウンサイクル時にも安定した収益源となり得るからだ。

ただしKATECHの研究者・張鴻昌氏は、韓国メモリメーカーが「容量・性能を優先し最低限の信頼性要件のみを満たす汎用的な開発戦略」を続けていると指摘。車載・産業用市場で長期的な競争力を持つには、信頼性・機能安全技術への投資拡大と、クアルコム・モービルアイ・NVIDIAなどの車載SoCサプライヤーとの協力強化が不可欠だという。

マイクロンは1990年代初頭から車載・産業用メモリに参入した長年の実績を持ち、BMW・コンチネンタルなどとの関係も深い。サムスンが首位を維持できるかどうかは、中国市場の動向と信頼性基準への対応力にかかっている。

まとめ:「AIが車から奪うメモリ」という逆説

皮肉なのは、AIが車を賢くする一方で、AIそのものが車に必要なメモリを奪っているという構図だ。自動運転・ADASの普及が車載メモリ需要を押し上げながら、その供給は同じAIへの投資によって制約されている。

サムスンのシェア首位奪取はその緊張関係の象徴である。高性能品に注力しHBM生産に傾倒しつつも、車載向けに必要な認定製品ラインナップを広げることで、両市場のバランスを保つ綱渡りを続けている。

自動車産業が「ソフトウェア定義の乗り物(SDV)」へと転換するなか、メモリを確実に確保できるかどうかは、自動車メーカーの競争力を左右する重大な経営課題になりつつある。

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