AI時代のストレージ競争でサムスンが大きな一歩
韓国サムスン電子(Samsung)が、世界で初めて900層クラスのV-NANDフラッシュメモリ試作に成功したことが明らかになった。
初めに報じた韓国メディアのETNewsによると、サムスンは「Cell Multi-Bonding(CMB)」と呼ばれる新たな接合技術を活用し、450層のセルウェハー2枚を一体化することで900層クラスのV-NANDを実現したという。
現在量産されているNANDフラッシュの積層数を大きく上回る成果であり、業界が目指す1000層NAND時代への重要なマイルストーンとして注目を集めている。
AIサーバーやデータセンター向けストレージ需要が急拡大するなか、高密度かつ低消費電力なNAND技術は、メモリメーカーの競争力を左右する重要分野となっている。
なぜ積層数が重要なのか
NANDフラッシュは、データを保存するメモリセルを垂直方向に積み重ねることで容量を増やす「3D構造」を採用している。
積層数が増えるほど、
- 同じチップ面積でより大容量化できる
- 消費電力を抑えられる
- SSDの記憶密度を向上できる
- AIサーバー向けストレージ性能を高められる
といったメリットがある。
生成AIや大規模言語モデル(LLM)の普及に伴い、学習・推論に必要なデータ量は爆発的に増加している。そのため、HBMやDRAMだけでなく、膨大なデータを保存するNANDフラッシュの重要性も急速に高まっている。
900層実現の鍵となった「Cell Multi-Bonding」
今回の技術的な最大の特徴は、450層セルウェハーを2枚接合する「Cell Multi-Bonding(CMB)」技術にある。サムスンは2013年に世界で初めて3D V-NANDを商用化したが、積層数が増えるにつれて物理的な限界に直面してきた。
特に900層クラスでは、
- ウェハーの反り(Warpage)
- 積層時の位置ずれ(Misalignment)
- 電力消費の増加
- ダイサイズの大型化
といった問題が顕著になる。
ETNewsによれば、サムスンは新たな「Upper Chuck」設計を導入し、厚くなったウェハーを安定的に保持することで反りを抑制した。また独自の「Overlay Correction」技術によって、接合時に発生する微細な位置ずれも補正したという。
技術的な観点からは、ストレージ専門メディアのBlocks & Filesも今回の成果を高く評価している。同メディアは、サムスンが400層世代の量産準備を進めながら、研究開発では900層という新たな領域へ到達した点に注目している。
さらにビットライン(BL)およびワードライン(WL)の構造を改良することで、消費電力とチップサイズの削減も実現した。

量産ではSKハイニックスが先行
現在、量産市場で最も高い積層数を実現しているのはSKハイニックスだ。同社は321層4D NANDを量産しており、高積層NAND市場をリードしている。
一方サムスンは2026年中に400層超の第10世代V-NAND(V10)の量産を予定している。
つまり、
- 現在の量産競争ではSKハイニックス
- 次世代研究開発ではサムスン
という構図が見え始めている。
中国YMTCの急追を警戒
今回の発表の背景には、中国勢の急速な追い上げもある。
業界動向を伝えるWccftechによると、中国の長江存儲科技(YMTC)は294層NANDを量産しており、300層級製品の投入を視野に入れているという。
中国政府の支援を背景に、生産能力の拡大と技術開発を同時に進めており、今後のNAND市場における存在感はさらに高まる可能性がある。
そのためサムスンの900層技術は、単なる技術デモではなく、中国勢との技術格差を再び広げるための戦略的な意味合いも持っている。
1000層NAND時代は2030年前後か
今回の900層V-NANDは量産技術ではなく研究開発段階の成果だ。Wccftechは、サムスンが2030年前後の1000層NAND実用化を視野に入れていると報じている。
また、サムスン関連情報を伝えるSamMobileは、同社が以前から強誘電体(Ferroelectric)材料を用いた次世代NAND技術の研究を進めていることにも触れており、1000層以降の超高密度メモリ技術への布石として注目している。
まとめ
サムスンの900層V-NAND試作成功は、単なる積層数の記録更新ではない。
ウェハー反りや位置ずれといった物理的限界を克服し、1000層時代へ向けた新たな製造技術の可能性を示した点に真の価値がある。
AI需要の拡大、中国YMTCの追い上げ、そして次世代ストレージ市場の主導権争いが激化するなか、今回の成果はサムスンが依然としてメモリ技術の最前線に立っていることを示す象徴的な出来事となった。


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