韓国が800兆ウォン(約83兆円)投資、Samsung・SK hynixがDRAM生産能力倍増へ 台湾メモリ業界に警戒感

韓国が800兆ウォン投資、Samsung・SK hynixがDRAM生産能力倍増へ|台湾メモリ業界への影響 半導体メモリ

韓国政府とSamsung・SK hynixが、メモリ分野で過去最大規模となる800兆ウォン(約83兆円)の投資計画を発表した。両社は今後5年でDRAM生産能力を倍増させ、AI向けメモリ需要の拡大を見据えた供給体制の強化を進める。

一方、メモリ業界では大型投資や増産計画の後に需給バランスが崩れ、市況が急変した例も少なくない。この巨額投資はAI時代の成長を支える追い風となるのか、それとも数年後の供給過剰を招くのか。本記事では、その背景と台湾メモリ業界への影響を詳しく読み解く。

韓国政府主導「三大超級プロジェクト」の全体像

経済日報の報道によると、韓国大統領・李在明Samsung電子会長・李在鎔SKグループ会長・崔泰源は共同で記者会見を開き、記憶体投資を含む「三大超級プロジェクト」を発表した。政府トップと財閥トップが揃って登壇したこと自体が、今回の投資が単なる企業判断ではなく国家戦略として位置づけられている証左といえる。

投資規模:韓国政府予算を上回る800兆ウォン(約83兆円)

Samsung電子SK hynixは韓国南西部(湖南)地域に合計800兆ウォンを投じ、記憶体工場4棟を新設する計画だ。この800兆ウォンという金額は、韓国政府の今年度予算総額(約728兆ウォン)を上回る規模であり、一企業の設備投資というより国家プロジェクトに近い性格を持つ。半導体単一分野への投資としては過去に例を見ない水準といえる。

非首都圏への生産拠点分散:台湾モデルを参考に

韓国政府は台湾の半導体産業政策(新竹・台中・台南を軸とする科学園区分散モデル)を参考に、投資の重心を非首都圏へ分散させる方針も示した。光州は新たな記憶体製造拠点として位置づけられ、南西部地域は韓国第2の半導体生産基地に育成される計画だ。Samsung電子とSK hynixは天安・温陽をHBM(広帯域幅メモリ)パッケージング拠点として発展させるほか、釜山・慶尚南道(東南圏)や大邱・慶尚北道(大慶圏)でも半導体材料・部品・装置の生産ラインを整備する。

両社の投資総額と次世代技術への追加投資

Samsung電子は平澤・龍仁の既存投資と合わせ、韓国国内投資額を合計2,655兆ウォンまで積み増す方針を示した。

SK hynixも1,100兆ウォン規模の中長期半導体発展計画(今回の南西部投資400兆ウォンを含む)を打ち出している。

韓国超大型投資計画

このほか韓国政府は今後15年間で30兆ウォンを投じ、次世代記憶体、エッジAIチップ、防衛関連半導体の開発を後押しする方針だ。複数年・複数領域にまたがるこの投資計画は、単発の増産発表ではなく、韓国の半導体産業構造そのものを再設計する試みと位置づけられる。

DRAM生産能力5年倍増の狙いとHBM・DDR5戦略

Samsung電子とSK hynixは世界のDRAM市場でシェア65%超NAND市場でも合計約50%超を握る二大メーカーである。今回の「5年でDRAM産能倍増」という目標は、AI需要によるメモリ市場の構造変化を踏まえ、HBM、DDR5、大容量NANDチップの拡充に照準を合わせたものだ。

一方で、記憶体は工場ラインの用途転換が比較的柔軟な産業構造を持つため、需要が想定を下回った場合には価格の急落を招くリスクも指摘されている。両社の増産発表を受け、Samsung電子・SK hynixの株価はそろって下落し、Samsung電子は4.7%超の急落となった。米国市場でもMicronが8%超、SanDiskが9%超下落するなど、記憶体関連株全般に不透明感が広がっている。

台湾記憶体メーカーの対応:規模で戦わず「質」で守る

経済日報の報道によると、韓国勢の大規模拡張を受け、南亞科(Nanya Technology)、華邦(Winbond)、力積電(PSMC)、旺宏(Macronix)も資本支出を拡大しているが、いずれも規模で対抗するのではなく、プロセス微細化や高付加価値製品、ニッチ市場に照準を絞る「以守代攻(守りを固めつつ攻める)」戦略を採用している点が共通している。以下、各社の投資計画を具体的な数値とともに整理する。

南亞科(Nanya Technology):先端DDR5とカスタムHBMに集中

南亞科(Nanya Technology)は今年の資本支出計画を520億台湾ドル超と設定した。主に5A新工場の拡張と先端プロセス開発に充当し、2027年第1四半期に新工場の設備搬入を開始、下半期の量産開始を目指す。これにより今後2〜3年で全体生産能力を80〜100%引き上げる計画だ。

プロセス面では、10ナノ級第2世代(1B)16Gb DDR5、8Gb・4Gb DDR4製品をすでに量産しており、128GB DDR5 RDIMM(5600/6400 Mb/s)のサーバー向け製品も機能テストを完了している。さらに先端の10ナノ第3世代(1C)16Gb DDR5は下半期に検証完了予定、第4世代(1D)16Gb DDR5は第2四半期に試作導入を進めており、顧客とのカスタムHBM共同開発も進行中だ。

華邦(Winbond):先進パッケージングとフラッシュ産能拡張

華邦(Winbond)は取締役会で73億台湾ドルの追加資本支出を承認した。うち50億台湾ドル超をCUBE先進パッケージング技術設備に投じる方針で、主要な支出は来年に集中する見込みだ。フラッシュメモリの月産能力は2025年の4万枚から2027年には5万枚に引き上げる計画で、ウエハー生産能力ベースで約20%増、プロセス最適化を加味したビット生産量では40〜50%近い成長が見込まれている。

力積電(PSMC):受託価格引き上げとHBM設備投資

力積電(PSMC)は受託生産とAIサプライチェーンを軸に展開している。3〜4月にDRAM・NAND受託価格を構造的に引き上げ、その効果は6月以降順次顕在化する見通しだ。今年の資本支出は約5.12億米ドル(新台湾ドル約160.94億元)を計画し、HBM生産設備を購入してAI関連サプライチェーンへの参入を進めている。

旺宏(Macronix):AI需要と競合撤退を追い風に増産

旺宏(Macronix)はAI需要の拡大と競合他社の一部記憶体市場からの撤退を追い風に受注転換が進み、2026年に約220億台湾ドルの資本支出を投じて増産に踏み切る計画だ。

下流のストレージ・モジュール業者に広がる在庫リスク

サプライチェーン下流に位置するストレージソリューション業者やモジュールメーカーにも警戒感が広がっている。群聯(Phison)、威剛(ADATA)、創見(Transcend)、宇瞻(Apacer)、十銓(Team Group)などは、記憶体の品薄・価格上昇局面で在庫水準を積み増し、旺盛な顧客需要への対応と、仕入れ価格と販売価格の差益確保を同時に狙ってきた。

需給バランスが崩れる可能性

現状では手元在庫は「黄金」に等しい価値を持つが、記憶体産業には元来強い景気循環の特性がある。Samsung電子とSK hynixの増産投資により新規供給が数年かけて市場に出てくれば、最終需要がそれに追いつかない場合、需給バランスが再び崩れる可能性がある。その場合、高値で積み増した在庫は評価損リスクにさらされ、「黄金」が一転して「毒薬」に変わりかねないと業界関係者は警告している。

今後の焦点

韓国の記憶体大手による過去最大規模の投資は、AI需要を背景にした強気な判断である一方、記憶体産業特有の需給循環リスクを改めて浮き彫りにした。

台湾勢は正面からの規模競争を避け、先端プロセスとニッチ領域への集中で差別化を図る構えだが、下流の在庫水準や最終需要の動向次第では、業界全体が数年後に価格調整局面へ転じる可能性も否定できない。

日本の半導体・電子部材関連企業にとっても、韓国の増産計画と台湾勢の対応は、今後のDRAM・NAND調達戦略を左右する重要な変数となりそうだ。

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