TSMCが成熟プロセスも値上げへ|AI特需で「暴利」批判が広がる理由

TSMCが成熟プロセスも値上げへ|AI特需で「暴利」批判、半導体価格高騰へ 半導体ロジック

半導体受託製造最大手のTSMC(台積電)が、AI半導体向け先端プロセスだけでなく、これまで価格据え置きが続いていた成熟プロセス(レガシープロセス)でも値上げに踏み切る見通しとなった。背景には原材料費や人件費の上昇がある一方、市場ではAI特需を追い風に価格決定力をさらに強めようとしているとの見方もあり、「暴利」との批判も聞かれる。なぜTSMCは成熟プロセスまで値上げを進めるのか。

本記事では、値上げの背景や業界への影響、UMC・PSMC・VISなど他ファウンドリーへの波及、半導体価格高騰の可能性について詳しく解説する。

TSMCが成熟プロセスでも値上げ通知、コロナ後初めて

経済日報(UDN Money)が2026年7月13日に報じたところによると、TSMC(台積電)は複数のIC設計業者に対し、成熟プロセスの価格引き上げを通知し始めた。値上げ幅は顧客ごとに異なり、適用開始は2027年1月を予定しているという。これはTSMC(台積電)にとって新型コロナウイルス流行後、実に3年ぶりとなる成熟プロセス価格の引き上げであり、先行して値上げ済みの複数の先端プロセスノードと合わせ、価格上昇の恩恵をさらに拡大させる格好となる。

TSMC(台積電)は7月16日(木)に決算説明会を控えており、現在は沈黙期間中であることを理由に、成熟プロセス値上げの噂について7月12日時点ではコメントを避けた。同社はこれまでも価格戦略について「機会主義的ではなく、戦略的な価格設定を一貫して行っており、顧客との緊密な連携のもとで価値を提供し続ける」と繰り返し説明してきた。

値上げ幅は「一桁台%」、第4四半期に確定へ

年初来、TSMC(台積電)の先端プロセスは供給逼迫が続き、4年連続の値上げとなっていたが、今回はその流れが成熟プロセスにまで波及した形だ。複数のIC設計業者によると、各社は年末にかけて来年度予算の編成に入る時期であり、TSMC(台積電)は顧客との価格協議をすでに開始しているという。

値上げ幅は顧客・製品ラインごとに異なり、第4四半期に正式決定される見通しだが、現時点では一桁台パーセントの上昇にとどまるとの見方が示されている。

なぜ「暴利」批判が出るのか——独占的地位を背景にした価格転嫁

業界関係者が注目するのは、TSMC(台積電)が現在、経営資源の主力を先端プロセスに集中させているにもかかわらず、あえて成熟プロセスの値上げにも踏み切ろうとしている点だ。

これは、AI特需による半導体需要の拡大が、GPUや高性能演算(HPC)向けの先端プロセスだけでなく、電源管理IC(PMIC)やパワー半導体といった周辺の成熟プロセス分野にまで及んでいることの裏返しだと業界では受け止められている。

つまりTSMC(台積電)は、AI需要の高まりで「売り手市場」となった好機を捉え、先端・成熟を問わず全方位的に価格決定力を行使しようとしている構図だ。匿名を条件に取材に応じたIC設計業者によれば、今年上半期以降、TSMC(台積電)以外のファウンドリーもすでに成熟プロセス価格を段階的に引き上げてきたほか、パッケージング・テスト業者も相次いで値上げを実施しており、チップの製造コストは一貫して上昇し続けている。

多くのIC設計業者はこれを受けて自社製品の値上げに踏み切らざるを得ない状況にあり、TSMC(台積電)が来年、成熟プロセス価格を引き上げる意向を示したことで、IC設計業者はさらなるコスト負担増を強いられ、新たな半導体値上げの波が広がろうとしている。

「値上げしないと立ち行かない」——連鎖するコスト転嫁

TSMCレガシープロセスも値上げラッシュ

匿名の業界関係者は、ファウンドリーやパッケージング・テストのコストが上昇を続ける中で、チップの販売価格は「上げざるを得ない」と明言し、顧客側もコスト増加分を下流に転嫁する動きが広がるとして、これを「連鎖反応」と表現している。半導体インフレがさらに拡大する恐れがあるとの懸念も示された。

TSMC(台積電)が圧倒的なシェアを持つ先端プロセス市場ではすでに「言い値」に近い価格決定力を握っているとされるが、今回の動きは、代替の効きにくい成熟プロセスの領域でも同様の構図を作ろうとしているとも読める。

AI特需という追い風を最大限に利用し、業界全体の値上げムードに便乗する形で利益率をさらに押し上げようとする姿勢に、「暴利をむさぼっているのではないか」との厳しい視線が向けられる所以である。

UMC・PSMC・VISも追随、値上げ幅はTSMC以上との見方も

TSMC(台積電)の動きは、成熟プロセスを主戦場とする他のファウンドリーにも波及している。聯華電子(UMC)、力積電(PSMC)、世界先進(VIS)といった成熟プロセス専業ファウンドリー各社にとって、業界最大手であるTSMC(台積電)が成熟プロセスの値上げに加わったことは、自社の値上げ戦略を後押しする「安心材料」になっているという。業界では、聯華電子(UMC)などの値上げ幅はTSMC(台積電)を上回るとの見方が有力だ。

IC設計業者によれば、聯華電子(UMC)、力積電(PSMC)、世界先進(VIS)は、TSMC(台積電)に先立ってすでに複数回の成熟プロセス値上げを実施済みであり、TSMC(台積電)が値上げ陣営に加わったことで、今後の値上げ交渉により強い立場で臨めるようになるとみられている。

聯華電子(UMC):原材料・シンガポール工場拡張コストを反映

聯華電子(UMC)は7月上旬、顧客向けに改めて値上げ通知を発出したとされる。原材料費やシンガポール工場の拡張コストの上昇を踏まえ、新規プロセス・新規受注を対象に選択的な値上げを実施し、来年は顧客と全面的な価格見直し協議を行う方針だという。パワー半導体分野での成熟プロセス需要回復も追い風となっており、下半期の業績は上半期を上回るとの期待が業界で高まっている。

力積電(PSMC):値上げ効果が6月から本格反映

力積電(PSMC)の朱憲国・総経理は、先行して実施した値上げの効果が6月から業績に反映され始め、下半期の売上高を大きく押し上げていると説明した。同氏は、メモリー新規生産能力の拡大ペースが緩やかである一方、今回のメモリー価格上昇はコロナ禍時よりも急激だと指摘し、市況の好調は来年まで続く可能性があるとの見方を示している。

世界先進(VIS):フル稼働が続き、価格戦略を継続的に見直し

世界先進(VIS)の方略・董事長(会長)は、顧客とともに需要競争に向き合っていると述べたうえで、すでに値上げ策を発表し、顧客の大部分から理解・受け入れを得ていると明らかにした。人件費・原材料費・継続的な設備投資といったコスト増加要因を踏まえ、今後も顧客とともに価格戦略を見直していく考えを示している。世界先進(VIS)は現在フル稼働の状態で供給が需要に追いつかず、顧客は生産能力確保のために積極的な発注を続けているという。同社は、AI関連の需要・投資意欲は明確である一方、商用・産業用・車載向け半導体の在庫調整は健全な水準に戻りつつあり、全体需要は回復基調にあると分析。加えて、先端プロセスへのリソース集中が成熟プロセスの供給を構造的に圧迫しているとの見方も示した。

今後の展望——7月16日の決算説明会に注目

TSMC(台積電)は7月16日に決算説明会を開催予定で、成熟プロセス値上げの是非についても市場の関心が集まる。現時点でTSMC(台積電)は正式コメントを避けているが、先端プロセスでの4年連続値上げに続き、成熟プロセスにまで価格転嫁の対象を広げる動きは、IC設計業者だけでなく、その先にある電子機器メーカーや最終消費者にまで、コスト増加の影響が及ぶ可能性を示唆している。

AI特需が生み出す巨額の利益を背景に、TSMC(台積電)がどこまで価格決定力を行使するのか。半導体サプライチェーン全体のコスト構造とインフレ動向を占ううえでも、今回の成熟プロセス値上げの行方は注視すべき重要な論点といえる。


参考記事/関連記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました