中国のインジウムリン(InP)輸出規制で光半導体危機!AIデータセンターと日本企業への影響

中国InP輸出規制で日本の光半導体危機 先進パッケージング・半導体材料

中国がインジウムリン(InP)の輸出を規制し、AIデータセンターの光半導体サプライチェーンに深刻な影響が生じている。InPは光通信レーザーやCPO(Co-Packaged Optics;光電融合技術)に不可欠な材料であり、代替素材が存在しない。

中国は世界のインジウム生産の約70%を握っており、2025年2月の輸出管理強化以降、6インチInPウェハ価格は250%超に急騰。GPUやHBMに続く新たなボトルネックとして、AIインフラ拡張を制約する構造的リスクが浮上している。

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AI競争のボトルネックはGPUではなく「光半導体材料」へ

AIデータセンター向け投資が世界中で加速するなか、新たな供給リスクとして注目を集めているのが「インジウムリン(InP:Indium Phosphide)」です。

2026年6月、ロイターは、中国によるインジウムリン輸出規制が世界のAIデータセンター建設計画に深刻な影響を与え始めていると報じました。CoherentのCEOジム・アンダーソン氏が、トランプ大統領の訪中に同行した経済代表団の一員として北京を訪問し、輸出許可の遅延問題を直接提起したほどです。

これまでAI半導体の供給制約といえばNVIDIA GPU・HBM・先進パッケージが中心でしたが、現在は光インターコネクト向けInP基板不足が新たなボトルネックとして浮上しています。

インジウムリン(InP)とは何か

インジウムリンはⅢ-V族化合物半導体の一種で、電気信号と光信号を相互変換できる特性を持ちます。AIデータセンターでは銅配線から光ファイバーへの置き換え(フォトニクス化)が急速に進んでおり、InPは以下の用途で代替不可能な材料となっています。

  • 光通信レーザー・光トランシーバー
  • シリコンフォトニクス用光源
  • CPO(Co-Packaged Optics)
  • 800G/1.6T光モジュール

SemiAnalysisのアナリスト、コンラッド・ワン氏は「InPはAIデータセンター建設を複合的に制約するボトルネックの一つだ」と指摘しています。

NVIDIAも巨額投資するフォトニクス市場

NVIDIAは2026年3月に米フォトニクスメーカーのCoherentとLumentumへそれぞれ20億ドルを投資。Marvell TechnologyもCelestial AIの買収を進め、光通信技術の内製化を急いでいます。AIサーバーの性能向上にはGPU同士を接続する光インターコネクト技術が不可欠であり、InP需要はこうした大型投資とセットで急拡大しています。

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中国が握る「70%」の支配力と規制強化

米国地質調査所(USGS)のデータによると、中国は世界のインジウム精製生産量の約70%を占めています。中国政府は2025年2月4日、タングステン・テルル・ビスマス・モリブデン・インジウムを対象とする輸出管理を発動し、InP関連材料が規制対象となりました。

その結果、輸出許可取得の長期化・出荷遅延・供給不足が連鎖的に発生。世界2位のInP基板メーカーであるAXTの中国子会社は、2025年6月になってようやく最初の輸出許可を取得できた状況です。未充足の注文は積み上がり、LumentumはInP基板が逼迫しているにもかかわらず生産を4倍に増やしても2028年まで受注が埋まっている状態が報告されています。

また北京時代明克晶体科技(Beijing Tongmei)は2025年8月に一部顧客向けの輸出許可を取得したものの、許可の付与は選択的かつ緩慢な動きにとどまっています。

InP価格は250%上昇

輸出規制の影響を直接受けて、6インチInPウェハの価格は規制前比で約250%上昇し、1枚あたり5,000ドル前後に達しています。台湾の光通信部品メーカーであるVPEC(Visual Photonics Epitaxy)やLandMark Optoelectronicsも、AXTの輸出許可遅延に起因する直接的な供給混乱に直面しています。

InP(インジウムリン)ウェハー価格トレンド
筆者作成:InPウェハー価格の推移。価格は約3倍に跳ね上がる。

CPO普及の障害にも

半導体業界で最も注目される技術の一つであるCPO(Co-Packaged Optics;光電融合技術)——スイッチASICやAIアクセラレータの近傍に光通信モジュールを統合する技術——もInP不足の影響を免れません。CPOのレーザー素子の大部分はInPを使用しており、「GPUがあってもInPがなければAIクラスタは完成しない」という状況が現実になりつつあります。

日本企業への影響と商機

今回の規制で最も注目されるのが、中国以外の主要InP基板サプライヤーである住友電工JX金属(旧JXアドバンストメタルズ)です。

住友電工はInPを使った光デバイス(DFBレーザー・EMLレーザー等)の一貫メーカーであり、基板から光デバイス製品まで垂直統合した供給体制を持ちます。ロイターも中国以外の代替供給源として同社を明示しており、中国規制の恩恵を受けやすい立場にあります。データセンター向け製品の生産能力強化のため2028年度までに1,000億円規模の設備投資を実施する方針を固めており、横浜製作所などで光配線・コネクター・光デバイスの生産を順次拡大しています。

JX金属は40年以上の実績を持つ世界有数のInP基板サプライヤーで、世界市場の約10%を占めます。2025年7月に茨城県・磯原工場への15億円投資を発表後、同年10月に33億円の追加投資を決定。そして2026年6月16日、4か年で最大1,200億円の設備投資方針を発表しました。磯原工場(茨城県北茨城市)に加え、ひたちなか地区(茨城県ひたちなか市)でも生産体制を強化し、2025年度比で7〜10倍の生産能力を目指す計画です。InP基板を半導体用スパッタリングターゲットに並ぶ主力収益柱へ育てる方針を明確にしています。

ただし、両社がフル増産体制に入るには時間を要します。新規生産ラインの立ち上げには通常2〜3年を要するとされており、短期的な供給不足の解消は容易ではありません。InPの結晶成長(エピタキシャル成長)はシリコンと異なり極めて難易度が高く、参入障壁の高さが増産速度を制約する構造的要因となっています。

なお、上流のサプライチェーンにも目を向けると、高純度赤リンの供給では日本の2社が世界シェアを二分しているとされ、材料全体のバリューチェーンにおいて日本の存在感は小さくありません。

インジウムリンは「次のレアアース」になるのか

コンサルティング会社Albright Stonebridge GroupのポールトリオロPerのパートナー、ポール・トリオロ氏は「中国はより精緻な『材料チョークポイント(Materials Chokepoint)』工具箱を開発しつつある」と指摘します。完成品の光通信製品を直接封鎖するのではなく、上流の化合物・基板・金属の輸出を遅延・条件付けすることで、光モジュール全体のエコシステムを間接的に締め上げる戦略です。

ガリウム・ゲルマニウム・レアアースに続き、InPを含むインジウム関連材料が規制対象に加わったことは、中国の輸出管理が半導体素材全般に体系的に広がっていることを示しています。AI時代の光半導体サプライチェーンにおいて、InP問題はガリウム規制と並ぶ地政学リスクとして今後も注視が必要です。

まとめ

HBM不足・先進パッケージ不足に続き、「InP不足」がAI産業の成長を制約する新たなリスクとして顕在化しています。日本の住友電工とJX金属は中国外の主要供給源として戦略的な位置にありますが、増産が軌道に乗るまでの時間差が短期的な価格高騰と納期長期化を後押しする構図は当面続きそうです。

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