中国によるインジウムリン(InP)の輸出規制は、半導体材料の供給に影響を及ぼし続けている。2026年に入り、一部で輸出許可が発給されたものの、米国向けの出荷遅延や調達の不透明感は解消されていない。
米国のAXTでは中国製InP基板の出荷が滞り、英国のIQEも供給への懸念を表明している。さらに、6インチInPウェハーの価格は5,000ドルに達したとされ、光通信向け材料の供給環境は厳しさを増している。
AIデータセンターの拡大に伴い、光通信に不可欠なInPの重要性は高まっている。本記事では、中国の輸出規制後の動向を整理し、主要メーカーへの影響、価格高騰の背景、日本メーカーの増産計画を解説する。
この記事で分かること
- 中国のInP輸出許可の発給状況
- AXTの米国向け出荷が遅れている理由
- IQEが警告するInP基板の供給リスク
- InPウェハーの価格高騰とAI向け光通信への影響
- 日本企業の増産と今後の供給動向
中国のInP輸出規制、一部緩和後も供給制約が続く
中国は2025年2月、インジウムやタングステンなどとともに、インジウムリン(InP)を輸出管理の対象に追加した。対象品目の輸出には、原則として中国政府の許可が必要となった。
2026年5月には一部のInP基板について輸出許可が発給され、供給改善への期待が高まった。しかし、許可の発給が始まったことと、輸出が全面的に正常化したことは同じではない。
実際、輸出先や企業によって許可の取得状況には差があり、米国向けの出荷では依然として遅延が発生している。
輸出許可の再開だけでは供給不足は解消せず
輸出許可の取得が遅れれば、メーカーは顧客への納期を確定できず、生産計画にも影響が及ぶ。
また、InP基板は光通信向けレーザーや受光素子の製造に使用される重要材料であり、短期間で他の材料やメーカーに切り替えることは容易ではない。
そのため、中国が一部の輸出許可を発給しても、必要な数量が安定して供給されるまでは、調達リスクが残る。
AXTの米国向けInP基板、輸出許可の遅延が続く
2026年9月、米国の半導体材料メーカーAXT1が、中国の輸出規制によって米国向けInP基板の出荷に支障が生じていることが明らかになった。
同社は中国で製造したInP基板を米国へ輸出するための許可を申請しているが、2026年8月時点でも取得の見通しが立っていない。一部の顧客注文が滞留しており、出荷再開の時期も不透明だ。
欧州・日本向けと米国向けで異なる輸出許可の状況
AXTは2025年に欧州や日本の一部顧客向けの輸出許可を取得し、出荷を再開している。
しかし、米国向けについては許可の取得が進まず、同じInP基板でも輸出先によって出荷状況が異なる。
AXTの事例は、中国の輸出管理が米国の光通信関連企業の調達にも直接影響していることを示している。
米国ではAIデータセンター向けの光通信需要が拡大しているため、基板の出荷遅延が長引けば、顧客企業の生産計画にも影響する可能性がある。
IQEも中国の輸出規制による供給不足を警告
英国の半導体材料メーカーIQE2も、2026年9月、中国の輸出規制によるInP基板の調達リスクを警告した。
IQEはInP基板上に半導体層を形成するエピタキシャルウェハーを製造している。光通信向けレーザーなどに使われる半導体材料を供給しており、InP基板の安定調達が事業に欠かせない。
AIデータセンター向け需要の拡大が供給制約に拍車
IQEは、中国の輸出許可取得に伴う遅延が、InP基板の供給上の課題になっていると指摘している。
一方、AIデータセンターの拡大によって、高速光通信向けの半導体需要も増加している。
AIサーバー間で大量のデータを高速転送するには、高性能な光通信技術が必要となる。InPはレーザーや受光素子に使用されるため、AIインフラの整備に伴って需要が拡大している。
こうした需要増加と中国の輸出規制が重なることで、InP基板の供給不足が深刻化する可能性がある。
IQEにとっても、基板の調達が滞れば、需要が拡大する市場で生産能力を十分に活用できないリスクが生じる。
6インチInPウェハーの価格は約5,000ドルに高騰
中国の輸出規制とAI向け光通信需要の拡大を背景に、InP基板の価格が大幅に上昇している。
2026年9月に報じられた市場価格によると、6インチInPウェハーは2025年初頭の約1,400ドルから約5,000ドルへ上昇した。
| 項目 | 価格 |
|---|---|
| 2025年初頭 | 約1,400ドル |
| 2026年9月 | 約5,000ドル |
| 上昇額 | 約3,600ドル |
| 上昇率 | 約257% |
※報道で紹介された市場価格であり、すべてのメーカーや取引条件に共通する価格ではない。
供給不足と需要拡大が価格上昇の背景
InPウェハーの価格上昇には、中国の輸出規制による供給制約と、AIデータセンター向け光通信需要の拡大が影響している。
特に、InP基板は高度な結晶成長技術を必要とするため、需要が急増しても短期間で生産量を増やすことは難しい。
また、調達先を変更する場合には、品質や性能の評価、顧客による認定なども必要となる。
こうした事情から、供給不足が長引けば、InP基板の価格高騰が光通信部品の製造コストにも波及する可能性がある。
日本企業の増産と今後の供給動向
中国への依存を減らすため、日本では住友電気工業やJX金属がInP基板の増産を進めている。
住友電気工業は2026年7月、2028年度までにInP基板の生産能力を2024年度比で3.1倍に引き上げる計画を発表した。JX金属も生産能力の拡大に向けた投資を計画している。
こうした日本企業の増産は、中国の輸出規制による供給リスクを軽減するうえで重要となる。
ただし、新たな生産能力が本格稼働するまでには時間がかかる。増産分が市場全体の供給量にどの程度反映されるかも、今後の注目点だ。
まとめ:中国のInP輸出規制、供給正常化には至らず
中国は2026年5月以降、一部のInP基板について輸出許可を発給したものの、供給制約は解消していない。
2026年9月には、AXTの米国向け出荷の遅延が明らかになり、IQEも中国の輸出規制による調達リスクを警告した。
さらに、6インチInPウェハーの価格は約5,000ドルに上昇しており、AIデータセンター向け光通信需要の拡大と供給制約が重なっている。
今後は、中国の輸出許可の発給状況に加え、日本企業による増産の進展や、AI向け光通信市場の需要動向が重要な焦点となる。
参考記事
- China Export Curbs Delay AXT’s US-Bound Indium Phosphide Shipments|The Epoch Times
- IQE warns China export curbs choke indium phosphide supplies|East Asia Brief
- InP関連ニュース|DIGITIMES


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