中国ガリウム輸出規制とは何か|CPO・光電融合・光半導体・GaAsサプライチェーンへの影響を読み解く

中国ガリウム輸出規制 先進パッケージング・半導体材料

中国によるガリウム(Ga)輸出規制が、光半導体やCPO(光電融合)のサプライチェーンに大きな影響を与え始めている。2023年8月の許可制導入以降、2024年12月には対米全面禁輸、2026年1月には日本向け管理強化へと規制は段階的に拡大した。中国が世界供給の大半を握るガリウムの国際価格は規制前の約3倍に上昇し、GaAs(ヒ化ガリウム)やGaN(窒化ガリウム)を用いる光半導体産業に深刻なコスト圧力をもたらしている。
本稿では、インジウムリン(InP)・インジウム(In)に続く戦略資源としてのガリウムに焦点を当て、GaAsとInPの違い、中国輸出規制の最新動向、住友電工やTSMCの対応、そしてAIデータセンター時代を支える光電融合(CPO)サプライチェーンへの影響を多角的に検証する。

なぜ今、ガリウムが焦点になるのか

本サイトではインジウムリン(InP)とインジウム(In)の輸出規制をこれまで詳報してきたが、ガリウムはそれに先行して規制が発動された素材だ。2026年6月19日、Reutersはインジウム金属への中国税関審査強化を報じ、InP規制に続く締め付け強化への懸念が業界に広がっていると指摘した。同月18日にはReutersがG7首脳合意(対中鉱物依存低減・備蓄調整)への中国外務省の反論を報じており、「輸出管理制度の整備は国際慣行に沿ったものだ」という北京の主張が改めて強調された。

化合物半導体の基幹材料であるガリウムは、ヒ化ガリウム(GaAs)・窒化ガリウム(GaN)として光通信用レーザー、パワー半導体、5G/6G対応デバイス、そして急拡大するAIデータセンター向けのCo-Packaged Optics(CPO)光源に不可欠だ。AIインフラが「電気から光へ」の転換点を迎えるまさにこの時期に、供給の根幹を揺さぶる規制が加速している。

中国ガリウム輸出規制のエスカレーション年表

中国のガリウム規制は段階的に強化されてきた。以下に時系列を整理する。

時期 措置の内容 対象・根拠
2023年8月 金属ガリウム・酸化ガリウム・窒化ガリウム等8品目を輸出許可制に移行 輸出管理法・対外貿易法に基づくデュアルユース品目規制。特定国非標的と表明
2024年12月3日 ガリウム・ゲルマニウム・アンチモン等の対米輸出を原則禁止(MOFCOM Notice 2024 No.46) 米国バイデン政権の半導体輸出規制追加強化への直接報復。即日施行
2025年11月9日 対米全面禁輸を2026年11月27日まで一時停止。ライセンス制は維持 米中首脳会談(釜山)後の外交的緩和措置。軍事用途向け禁輸は継続
2026年1月6日 日本向けデュアルユース品目の輸出管理強化を即日施行 日本の半導体製造装置輸出管理強化への対抗的措置とみられる
2026年6月18日 G7首脳宣言(脱中国依存・備蓄調整)への反論声明を外務省が発表 「輸出管理整備は国際慣行に沿う」と主張。制度の正当化を継続

出所:中国商務省・Xinhua(2023年7月)Mayer Brown(2023年7月)CSET(2024年12月)ジェトロ(2026年1月)をもとにexa-technologies.jp作成

注目すべきは、2025年11月の一時停止が「規制撤廃」ではない点だ。SEMICON.TODAYが指摘するように、制度的な輸出管理の枠組みは維持されたまま、運用を止めただけである。この「停止」はむしろ、中国が供給管理を外交カードとして随時行使できることを国際社会に実証した出来事と解釈できる。

図1:世界のガリウム供給シェア(中国の圧倒的支配)

世界のガリウム一次生産シェア(2024年推計) 94% 中国 中国 94% (一次生産・EUレポート2024年) ロシア 約3% その他 約3% (ドイツ、日本リサイクル等) 6% (その他)
【図1】世界のガリウム一次生産における中国の供給シェア。EUの2024年レポートでは中国が約94%を占めるとされ、代替供給源は極めて限定的。日本のDOWAエレクトロニクスはリサイクル由来ガリウムで世界トップシェアを持つが、その原料の一部も中国産に依存している。
※規制発動前の2023年推計では約98%とするデータも存在。EU Critical Raw Materials Report 2024などをもとにexa-technologies.jp作成

図2:ガリウム国際価格の推移(2023年〜2026年)

ガリウム国際価格の推移(概算、ドル/kg) 0 200 400 600 800 ドル/kg 2023/1 2024/1 2025/1 2026/1 6月 年 / 月 2023/8 規制開始 2024/12 対米禁輸 2026/1 日本向け強化 $240 $400 $500+ $685 $685
【図2】ガリウム国際価格の推移。規制前の2023年6月時点では1kg約240ドルだったが、2023年8月の許可制導入後に約400ドルへ急騰。2024年12月の対米全面禁輸発動を機に上昇が加速し、2025年〜2026年にかけて685ドル前後(規制前比約2.9倍)の最高値圏で推移している。
※国際相場の概算値(EU Freemarket / 日刊産業新聞 / Trading Economics 等複数ソース)をもとにexa-technologies.jp作成

GaAsとInPの違い|AI時代の光半導体材料の比較表

項目 GaAs(ヒ化ガリウム) InP(リン化インジウム)
主な構成元素 ガリウム(Ga)+ヒ素(As) インジウム(In)+リン(P)
バンドギャップ 1.42 eV(直接遷移型) 1.35 eV(直接遷移型)
主な発振波長帯 850nm帯(VCSEL等)
1,310nm帯(EML等)
1,310nm帯 / 1,550nm帯
(長距離光通信の主流)
電子移動度 約8,500 cm²/V·s 約5,400 cm²/V·s
主な光半導体用途 VCSEL(面発光レーザー)
EML(外部変調器集積レーザー)
LED・太陽電池・GaN HEMT基板
短距離データセンター接続
EML・CW-LD(CPO向け光源)
DFBレーザー
コヒーレント光通信
長距離・超高速データセンター間接続
CPOにおける役割 GaAs VCSEL方式(短距離CPO)
外部レーザー光源(ELS)候補
InP CW-LD(TSMC COUPE等の主流)
ELS方式CPOの主要光源
中国輸出規制対象 対象(ガリウム関連8品目)
2023年8月〜
対象(インジウム関連品目)
2025年2月〜
日本の主要関連企業 住友電工(GaAs基板・EML)
三菱ケミカルグループ(GaN基板)
DOWAホールディングス(高純度Ga)
住友電工(InP EML・CW-LD)
古河電工(InP DFBレーザー)
富士通・NTTエレクトロニクス
材料代替の難易度 高い
(ゲルマニウムより代替先乏しい)
極めて高い
(CPO光源に最適材料が限定)

出所:各種技術文献・住友電工テクニカルレビュー・ジェトロ資料等をもとにexa-technologies.jp作成

GaAsとInPは同じIII-V族化合物半導体ファミリーに属するが、規制する側の「鍵材料」が異なる。GaAsはガリウム規制(2023年8月〜)の影響を受け、InPはインジウム関連規制(2025年2月〜)の影響を受ける。CPOシステムが両方の材料系に依存する構成をとる場合、二重の供給リスクを抱えることになる。

光半導体サプライチェーンへの具体的な波及構造

ガリウム輸出規制が光半導体産業に与える影響は、単純な原料価格上昇にとどまらない。サプライチェーンの各層に連鎖する構造を持つ。

第1層:GaAs・GaN基板メーカーへの直撃

日経ビジネスによれば、日本はガリウムを輸入してGaAs基板を加工し、世界のヒ化ガリウム生産シェアの約40%を担ってきた。GaN基板では世界の約96%を日本勢が供給する。三菱ケミカルグループや住友化学がGaN基板を手がけ、中国産ガリウムを一部調達してきた経緯がある。規制強化による許可遅延と価格高騰は、これらメーカーの製造コストと生産計画に直接影響する。

第2層:EML・CW-LD等の光デバイスメーカーへの波及

GaAs基板を素材とするEML(外部変調器集積レーザー)やCW-LD(連続出力レーザーダイオード)の製造コストが上昇する。住友電工デバイス・イノベーション(SEDI)はEMLで世界トップクラス、CW-LDで世界過半数のシェアを誇るが、原材料コストの上昇はその競争優位の収益基盤を侵食しうる。

第3層:CPO(Co-Packaged Optics)量産タイムラインへの影響

TSMC COUPEはシリコンフォトニクスPICを核とするため、シリコンウェーハへの依存度は高いが、外部レーザー光源(ELS)としてGaAs系またはInP系のCW-LDを必要とする。SemiEngineering(2026年4月)が報告するように、GaAs VCSELはCPOの代替実装オプションとして参照されており、ガリウム規制はここでも供給リスクとして機能する。TSMCのCOUPEが2026年ボリューム量産に向けて立ち上げを急ぐ中、サプライヤー側の原料調達コスト上昇がCPOモジュール全体のコスト構造を変えつつある。

住友電工への影響:EML・CW-LD・GaN HEMTの三正面リスク

住友電工(5802)グループは、ガリウム規制の影響を光デバイスとGaN半導体の両事業軸で受ける。

住友電工の公式サイトが明かすように、SEDIはEMLで約40年の事業歴を持ち、CW-LDでは世界市場の過半数を占める。2025年1月に140億円の初期投資を発表(生産能力2倍化)、2028年度までに光デバイス全体で1,000億円規模の投資計画を進めている。この積極投資の前提となる原材料安定調達がガリウム規制によって揺さぶられるリスクは軽視できない。

GaN HEMT事業においては、日刊工業新聞(2025年1月)が報じたとおり、住友電工は米国でのGaNトランジスタ生産計画を見送った。5G需要の世界的な停滞が主因とみられるが、ガリウム調達コストの上昇がGaN事業の採算を圧迫する構図は変わらない。

一方、CPOサプライチェーンにおける住友電工の戦略的位置づけは高い。三井物産戦略研究所(2026年1月)によれば、NVIDIAが構築するCPOサプライチェーンに住友電工・TSMC・Fabrinet・センコーアドバンスが組み込まれており、光コネクタ(MPO/MTP等)では世界的シェアを握る。IDTechExが予測する2036年の200億ドル市場を獲得するためにも、原材料リスクの早期管理が不可欠だ。

TSMCへの影響:COUPE量産とCPOサプライチェーン

TSMC(台積電)のCOUPEはシリコンフォトニクスPICを核とするため、ガリウムへの直接依存度はGaAs専業メーカーより低い。しかしCPOシステム全体ではGaAsまたはInP系光源を外部調達するため、サプライヤーチェーンを通じた間接的リスクを避けられない。

BroadcomのTomahawk 6とNVIDIAのSpectrum-X PhotonicsがいずれもTSMC COUPEを採用しており、CPO量産能力の集中がTSMCに向いている。光部品(CW-LD等)のサプライヤーがガリウム調達難・原価上昇に直面した場合、TSMCのCPO製造コストと供給安定性が連鎖的に影響を受ける。COUPE 2026年ボリューム量産という最も重要な局面と、ガリウム規制の最厳格期が重なっていることは、半導体サプライチェーン史上の皮肉な符合といえる。

「複数資源の束ね管理」という新たなリスク構造

本稿のガリウムは、中国が展開する資源外交の連鎖の一環だ。地経学研究所(IOG、2026年2月)が指摘するように、ガリウム・ゲルマニウム・高純度黒鉛・アンチモン・インジウム・タングステン・レアアース7元素が「複数鉱物を束ねて運用し得る輸出管理」として機能している。単一資源への依存分散という従来型の対策では対処しきれない複合的リスクだ。

光半導体サプライチェーンはGaAs(ガリウム)とInP(インジウム)という異なる規制レイムの下に置かれた二種類の原料に同時に依存している。2026年6月19日のReuters報道は、インジウム金属そのものへの税関審査強化を伝えており、InP規制(2025年2月〜)に続く「ガリウム→インジウム→インジウム金属」という連続的な締め付けが現実化しつつあることを示している。

CPO時代の「光」のインフラは、皮肉にも地政学的に最も脆弱な二つの金属——ガリウムとインジウム——の上に立っている。

日本産業の対応戦略

代替調達の観点では、ガリウムはInPよりも選択肢が存在する。アルミニウム精錬の副産物として得られるため、中国以外のアルミ生産国(ロシア、ドイツ、カナダ等)でも回収可能だ。DOWAエレクトロニクスによるリサイクル由来ガリウムの増産も一手だが、日本の消費量全体をカバーするには限界がある。

政府レベルでは経済安全保障推進法に基づくガリウム・ゲルマニウムの特定重要物資指定が行われており、製錬工程の多角化支援と長期調達契約整備が政策的課題とされている。日本が2026年1月の対日輸出管理強化を受けたことで、「友好国を通じた迂回調達」経路の構築が急務となっている。

企業レベルでは、住友電工のような化合物半導体メーカーが「素材開発から最終製品まで一貫供給できる強み」を活かして垂直統合的な供給安定化を図ることが鍵を握る。ガリウムのリサイクル回収率向上、代替ソース開拓、在庫バッファー積み増しは短期的対策として、長期的には非中国産原料を前提とした製品設計・製造プロセスの見直しが競争力維持の条件となる。

一時停止中の現状は「猶予」に過ぎない。2026年11月27日という期限が迫る中、この猶予を実質的な脱依存への投資期間として活用できるかどうかが、日本の光半導体産業の命運を左右する。

参考記事

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