2026年現在、中国入国のハードルはここ数年で最も低い水準にある。日本人向けビザ免除措置の継続により、中国出張や商用渡航は以前より大幅に容易になった。PCR検査や隔離措置も不要となり、半導体メーカーや装置メーカー、材料メーカーによる顧客訪問や工場視察も計画しやすい環境が整っている。
その一方で、中国当局による半導体材料や技術データ、サンプル品に対する輸出管理は着実に強化されている。WF6やタングステンなどの戦略物資に加え、デュアルユース品目や業務データの取り扱いにも注意が必要だ。本記事では、中国入国制度の最新動向と税関検査・輸出管理規制の実態、そして半導体業界が知っておくべき実務上のポイントを解説する。
あわせて読みたい👉
● WF6価格が前月比204%急騰──タングステン原料断絶で日本2社が供給停止、TSMCも巻き込む半導体サプライチェーンの構造崩壊
● 中国入国カード(Arrival Card)オンライン申告の徹底ガイド|注意点とAlipayでの申告方法を詳しく解説
ビザ免除は2026年末まで延長済み
中国外務省は2025年11月、日本の一般旅券保持者に対するビザ免除措置を2026年12月31日まで延長すると発表した。対象は商業・貿易活動、観光、親族訪問、交流目的の30日以内の滞在であり、SEMICON China参加・顧客訪問・工場視察・商談といった典型的な短期出張はすべてカバーされる。
PCR検査・健康コード・隔離もいずれも不要であり、コロナ禍の運用は完全に過去のものとなった。
ビザ免除措置は定期的に更新される制度であるため、2026年末以降の渡航については公式情報を随時確認されたい。
SEMICON China 2026:上海で3月開催
SEMICON China 2026は、3月25〜27日に上海新国際博覧センター(SNIEC)にて開催された。東京エレクトロン、ニコン、東京応化、サムコなど日本の主要半導体関連企業が軒並み出展し、中国市場との接点を維持している構図は変わっていない。
中国半導体市場との関係継続を重視する日本企業にとって、引き続き最重要展示会のひとつであることは間違いない。
半導体材料サンプルの持ち込み・持ち出しには要注意
入国規制が緩和される一方、中国商務部と税関総署による戦略物資の管理は強化が続いている。2025年2月には以下の重要材料に対する輸出規制(ライセンス制)が導入された。
- タングステン・モリブデン
- インジウム・テルル・ビスマス
- サマリウムをはじめとする重レアアース各種(2025年4月追加)
これらは半導体製造工程で広く使用される材料であり、日本のタングステン製品メーカーの一部はすでに2026年度の受注制限を顧客に通知している。
半導体製造に欠かせないWF6(六フッ化タングステン)についても、タングステンの輸出規制強化による供給への影響が懸念されており、通関時の審査強化が報告されている。
サンプル品であっても、輸出許可や追加書類が求められるケースがある。材料メーカー・装置メーカーともに、通関前の事前確認を怠らないことが重要だ。
技術データ管理が最大のリスク
2026年の中国出張で最も注意すべきポイントは、「物」よりも「データ」である。
中国では反スパイ法(2023年改正施行)・国家安全法・データ安全法・サイバーセキュリティ法(2026年1月改正施行)の運用が強化されており、国家安全当局は要件を満たした場合に個人の電子機器を検査できる権限が明確化されている。
業務PCに保存された以下のようなデータは、持ち込み前に精査が必要だ。
- CADデータ・プロセスレシピ
- 歩留まりデータ・プロセス条件
- 顧客情報・契約書類
- AIチップ設計情報
持ち込むデータは必要最小限に絞り、残りはクラウドで管理する運用が推奨される。
筆者の実体験から——空港でのセキュリティ検査
実際に中国出張を重ねた経験から、気づいた点を共有したい。
USBメモリ・SDカードは持参しないことをすすめる。 上海(浦東・虹橋)・北京・深圳の各空港では出国時の手荷物検査が厳格で、USBメモリやSDカードが検出されるとチェックが入る確率が体感として明らかに上がる。係員による確認作業で時間を取られるリスクもある。
業務データはクラウドで管理する。 撮影した写真や資料は、その場でクラウドストレージにアップロードしてしまうのが最も手軽なリスク回避策だ。物理メディアを持ち歩く必然性を減らせる。
入出国の手続き自体は穏やかだ。 こうした注意点を押さえた上で言えば、2026年の中国の出入国は全体として緩やかである。空港職員の対応も概してスムーズで、過度に身構える必要はない。
Huawei・SMIC訪問時の注意
中国主要半導体企業の施設では、近年セキュリティ管理が年々強化されている。訪問時は以下に注意が必要だ。
- 製造ライン・設備の撮影は原則禁止
- 技術資料の無断収集
- 事前許可のないインタビュー
特にAI半導体・先端プロセス関連の施設では、撮影禁止区域が広範囲に及ぶケースも報告されている。
中国から日本への持ち帰りにも注意
中国からサンプルや資料を持ち帰る際にも注意が必要だ。中国商務部はデュアルユース品目・戦略物資に対する輸出管理を強化しており、2026年1月には対日向けのデュアルユース品目の輸出管理を即日強化した(商務部公告2026年第1号)。
対象となり得る品目には以下が含まれる。
- 半導体材料・特殊ガス
- プロセス技術・製造装置部材
サンプル品であっても輸出許可や追加書類が求められる場合があり、事前の確認が不可欠だ。
まとめ
2026年の中国出張は「入国は容易、技術管理は厳格」という新しいフェーズに入った。半導体メーカー・材料メーカー・装置メーカーいずれにとっても、出張者のデータ管理・物理メディアの持参ルール・サンプル輸送体制の見直しが求められる局面である。
入国そのものに余分な手間はかからなくなった。だからこそ、技術情報の管理に注意を払う余裕が生まれた、と前向きに捉えることもできる。


コメント