中国では2026年10月1日、改正「国防動員法」が施行された。半導体工場や製造装置、技術データ、人材、物流網など、民間企業の経営資源も国防動員の対象となる可能性がある。
さらに、9月15日には外国人の入国・滞在・居留に関する管理を具体化した新たな規定も施行された。これにより、中国に進出する半導体企業や中国出張者には、従来以上に慎重なリスク管理が求められる。
特に、半導体企業にとっては、中国国内の生産設備や技術情報の管理に加え、技術者の出張、電子データの持ち出し、サプライチェーンへの影響も重要な課題となる。
本記事では、改正国防動員法と新たな出入国管理規定の概要を整理し、半導体企業への影響と、中国出張者が事前に確認すべき実務上の注意点を解説する。
出入国管理の強化に注意
改正国防動員法とあわせて、2026年9月15日には「出入国管理に関する国務院規定」も施行された。
この規定は、中国人の出国管理だけでなく、外国人の入国、滞在、居留に関する管理も具体化している点が重要だ。
出入国、滞在、居留の申請理由について、真実性と適法性が求められるほか、出入国管理機関やビザ発給機関は、申請書類、関連資料、電子データを確認できる。
そのため、日本人の中国出張でも、以下の点に注意が必要になる。
- ビザ・入国申請の目的と実際の活動内容を一致させる。
- 工場、研究機関、政府関連企業への訪問目的を明確にする。
- 半導体の生産能力、設備、軍民両用技術に関する質問を限定する。
- 工場内の撮影、録音、データ取得を事前承認制にする。
- 中国国内で取得した資料や電子データの国外持ち出しを確認する。
- 出張用PCやスマートフォンには、必要最小限の情報だけを保存する。
通常の商談や技術打ち合わせが直ちに禁止されるわけではない。しかし、申請内容と実際の活動が異なる場合や、技術流出・国家安全に関わると判断された場合には、入国、滞在、居留、出国に影響する可能性がある。
半導体企業への影響
改正法では、国防動員に関係する企業や組織について、設備、生産能力、材料、技術、データ、人材などの情報が調査対象となる可能性がある。
半導体関連では、次のような資源が影響を受け得る。
- 半導体工場と製造ライン。
- 製造・検査装置と保守部品。
- シリコンウエハー、特殊ガス、薬液などの材料。
- パッケージ、テスト、修理などの後工程能力。
- 生産能力、在庫、歩留まりなどのデータ。
- 製造プロセス、設計、EDA関連情報。
- 装置保守やプロセスを担う技術者。
- 電力、用水、通信、物流などのインフラ。
国防動員が実施された場合には、民生向けの生産設備や輸送手段が、軍需や重要インフラ向けに優先配分される可能性がある。
特に、AI半導体、通信半導体、パワー半導体、センサー、先端パッケージ、無人機・衛星関連部品などは、軍民両用技術として注視されやすい分野だ。
企業が取るべき対応
企業は、次の3点を優先して準備する必要がある。
1. 中国出張を管理する
- 出張目的、訪問先、面談相手、滞在先を事前登録する。
- 重要技術者の同時出張を避ける。
- 出張者向けの緊急連絡網と退避手順を整備する。
- 日本、台湾、韓国、シンガポールなどに代替要員を確保する。
2. 技術・データを分離する
- 中国出張には専用PC・スマートフォンを使用する。
- 設計データ、ソースコード、製造レシピを保存しない。
- 多要素認証、暗号化、遠隔ロックを導入する。
- 工場写真、装置情報、歩留まり、在庫データの取得を制限する。
- 帰国後に端末を検査・初期化する。
3. 中国依存を把握する
- 中国工場の設備、生産能力、材料、在庫を棚卸しする。
- 中国国内の装置保守、物流、電力、用水への依存度を確認する。
- 重要材料と交換部品を中国国外にも備蓄する。
- 中国拠点が停止した場合の代替生産・調達ルートを確保する。
- 生産データとバックアップを複数地域に分散する。
まとめ
中国の改正国防動員法は、国防動員の対象を軍事分野から、経済、技術、データ、インフラ、サプライチェーンへ広げる内容となった。
半導体企業にとっては、中国国内の工場や装置だけでなく、材料、生産データ、技術者、保守体制、物流網もリスク管理の対象となる。
また、中国人の出国管理だけでなく、外国人の入国、滞在、居留に関する管理も具体化しているため、中国出張者は、出張目的と実際の活動内容を一致させ、端末や技術データの管理を徹底する必要がある。
現時点で外国人出張者や外資企業が一律に規制されるわけではない。しかし、国防動員が実施された場合には、出張者の移動、出国、通信、データ持ち出し、企業の生産設備や人材に影響が及ぶ可能性がある。
半導体企業は、出張管理、技術情報管理、中国依存度の低減を一体的に進めることが重要になる。


コメント