中国では2026年7月1日、新たに「民族団結進歩促進法」が施行された。この法律は一見すると民族政策に関する法律のように見えるが、実際には教育・企業活動・展示会・SNS・海外での発言まで対象となる包括的な制度であり、日本企業や外国人出張者にも無関係ではない。
特に半導体業界では、中国の反スパイ法や輸出管理法と組み合わさることで、技術データやサンプル品の管理、プレゼン資料、展示会での表現など、実務への影響がこれまで以上に大きくなる可能性がある。
本記事では、「民族団結進歩促進法」の概要と、出張者・技術者・半導体関係者が押さえておくべきポイントを分かりやすく解説する。
民族団結進歩促進法とは
民族団結進歩促進法は、中国政府が掲げる「中華民族共同体意識」の強化を法制化したものである。
教育や文化政策だけではなく、企業活動、広報、展示会、出版、インターネットでの情報発信まで幅広く対象としている点が特徴だ。
特に外国企業に関係する重要なポイントは次のとおりである。
域外適用(第63条)
中国国外にいる個人や企業であっても、「民族団結を損なう行為」と判断された場合には責任追及の対象となる可能性がある。
日本国内で行ったSNS投稿や講演、企業資料などが問題視される可能性も否定できない。
統一戦線工作部が主管
法律の主管は中国共産党の統一戦線工作部であり、台湾政策や海外華僑、外国企業との関係も担当する組織である。
企業活動や国際交流においても一定の影響が及ぶ可能性がある。
言論・出版・研修資料の管理強化
対象となるのは行政文書だけではない。
例えば、
- 企業研修資料
- 展示会パネル
- プレゼン資料
- Webサイト
- SNS投稿
- 動画配信
なども対象となり得る。
中国出張者が注意すべき5つのポイント
1. 台湾・新疆・チベットなど政治的話題を避ける
商談中だけでなく、雑談や食事の席でも政治・民族・歴史問題への言及は避けたほうが安全である。
台湾、新疆ウイグル自治区、チベット、香港などに関する発言は特に慎重さが求められる。

2. プレゼン資料・研修資料を事前確認する
中国向け資料では、
- 台湾の表記
- 地図
- 国旗
- 歴史説明
- 民族に関する記述
などを事前に確認し、不要な政治的要素を含めないようにすることが重要である。
3. 過去のSNS・ブログ投稿を確認する
域外適用が明記されたことで、日本国内で公開している情報も無関係とは言えなくなった。
中国出張前には、
- X
- ブログ
- YouTube
などの公開内容を確認しておくと安心である。
4. 写真撮影にも十分注意する
中国では反スパイ法の運用が強化されている。
以下のような場所では撮影を避けるべきである。
- 政府施設
- 軍関連施設
- インフラ設備
- 空港・港湾
- 宗教施設
観光地であっても周辺環境には注意したい。
5. 展示会・広報資料の表現を再確認する
展示会では、
- 台湾を独立国家として表現する
- 地図の境界線
- 民族・歴史に関する説明
などが問題視される可能性がある。
日本国内で使用している資料をそのまま持ち込むことは避けたい。
半導体業界が特に注意すべきポイント
半導体分野では、民族団結進歩促進法だけではなく、輸出管理法や反スパイ法とも関係するため、より慎重な対応が求められる。

1. 半導体材料やサンプル品の持ち出し
レアアース、磁石、半導体材料などは軍民両用品目と判断される場合がある。
評価用サンプルであっても、輸送や持ち出しには十分な確認が必要である。
2. 技術データの管理
PCやUSBメモリに保存された設計データや技術資料は確認対象となる可能性がある。
出張時は、
- 必要最小限のデータだけを持参する
- クラウド管理を活用する
- 渡航用PCを用意する
といった対策が望ましい。
3. 台湾企業との協業に関する発言
台湾企業との共同開発やサプライチェーンについて説明する場合でも、政治的な表現と受け取られないよう慎重な言葉選びが必要である。
4. サプライチェーンにも域外適用リスク
中国輸出管理法では域外適用が規定されている。
中国由来の部材や材料を第三国経由で利用するケースでも、規制対象となる可能性があるため、サプライチェーン全体で確認が必要である。
5. 展示会・研修資料の政治的表現を排除
市場マップや地域区分、地図表記などは、海外展示会でも中国向けとは別に管理することが望ましい。
出張前に確認したいチェックリスト
出張前には、次の項目を確認しておきたい。
- 研修資料の台湾・民族・歴史に関する記述を確認
- 地図や国名表記を確認
- SNSやブログの公開内容を確認
- PCやUSBの技術データを整理
- サンプル品・半導体材料の持ち出しを確認
- 商談資料から不要な政治的表現を削除
- 現地での写真撮影場所を確認
- 出張者へのコンプライアンス教育を実施
まとめ
民族団結進歩促進法は、民族政策にとどまらず、企業活動や情報発信まで幅広く影響する新しい法制度である。
特に日本企業では、中国出張者だけでなく、営業担当、マーケティング担当、展示会担当、半導体技術者なども影響を受ける可能性がある。
さらに、反スパイ法や輸出管理法など既存制度との組み合わせによって実務上のリスクは一層複雑になっている。
中国との取引や出張を予定している企業は、法令の内容を理解するとともに、資料管理、技術データの保護、SNS運用などを含めたコンプライアンス体制を見直しておくことが重要だ。
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