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SMIC・滬硅産業・煙台達邦を対象とした2026年5月の一斉売却。その裏に見え隠れする、AIと半導体を統合した中国の壮大な国家戦略とは。
SMIC・NSIG・Darbond
2024年末始動
大基金が出資交渉中
「大基金」とは何か——中国半導体産業の番人
中国半導体産業の発展を国家ぐるみで支えてきた国家集成電路産業投資基金(CICF)、通称「大基金(ダー・ジージン)」が2026年5月下旬、複数の半導体銘柄の持ち分を相次いで削減し、市場に衝撃を走らせた。
大基金は2014年に第一期、2019年に第二期が設立され、国策として中国の半導体産業を底支えしてきた。日本経済新聞の報道によると、第三期の規模は約7兆円に達し、2024年末に本格始動した。SMICや長江存儲(YMTC)など中国を代表するチップメーカーの主要株主として、文字通り業界の「北極星」とみなされてきた存在だ。
その大基金が、なぜ今になって保有株の売却に動いているのか。答えは単純な利確売りではなく、はるかに深いところにある可能性がある。
今回の売却——何が起きたのか
2026年5月19日〜28日にかけて、大基金は以下の3社の持ち分を立て続けに縮小した。いずれも株価が年初来高値圏にあったタイミングでの売却だ。
| 企業名 | 売却期間 | 持株比率の変化 | 売却後の保有率 |
|---|---|---|---|
| 煙台達邦(Darbond Technology) 半導体パッケージ材料 |
5/19〜5/28 | 12.90% → 11.90% | 11.90% |
| 滬硅産業(NSIG) 半導体シリコンウェハ |
5/20〜5/28 | 13.89% → 12.89% | 12.89% |
| 中芯国際(SMIC) 中国最大のファウンドリ |
5/26 | 8.08% → 7.99% | 7.99% |
なぜ今、売却するのか——3つの読み方
① 値上がり益の確定と資本の再利用
最もシンプルな解釈は「利確売り」だ。2024年末から2025年にかけて中国の半導体関連株は大幅に上昇した。滬硅産業(NSIG)の時価総額は売却時点で1,000億人民元(約2兆円)を突破しており、煙台達邦も年初来で大きく値上がりしていた。株価の高いところで売って資本を回収するのは、ファンドとして極めて合理的な判断だ。
② 産業の成熟——「卒業」のシグナル
大基金の支援対象企業が自律的な成長軌道に乗れば、国策資本は次世代の育成フェーズへ移行する——これが本来の役割だ。36Kr Japanの報道によると、SMICは2025年に売上高が前年比16.5%増、純利益が36.3%増、稼働率は93.5%に達した。もはや手厚い国家支援を必要とする「黎明期」は過ぎ去ったとも読める。
③ 最大の謎——大基金がDeepSeekへ触手を伸ばしている
最も衝撃的な動きは、大基金の「投資ジャンルの転換」だ。複数の報道によると、大基金はAIスタートアップDeepSeekの初の外部調達ラウンドをリードする交渉を進めており、その評価額は約450億ドル(約6.5兆円)に達するとされる。テンセントやアリババも参加を検討中だ。
大基金がAI大規模言語モデル(LLM)企業に投資するのは史上初のこと。これは単なる投資先の変化ではなく、「半導体産業政策」と「AI覇権」の統合という、中国の国家戦略そのものの転換点を意味する。
DeepSeekは2025年初頭、米国のトップAIモデルよりもはるかに低コストで匹敵する性能を示したモデルを発表し世界を驚かせた。同モデルは米国の輸出規制をくぐり抜けてファーウェイ製チップに最適化されており、「中国版AI自立」の象徴そのものだ。大基金がDeepSeekへの巨額投資のために既存保有株を換金しているとすれば、ピースは見事に合う。
SMICを巡る別の動き——持株の「転換」という構造
SMICの売却は、さらに複雑な構造を持っている。SMICは2025年末、大基金第一期などが保有するSMIC北方(SMIC North)の49%持分を、株式発行によって取得する計画を発表していた。評価額は約406億人民元(約8,800億円)で、上海スターマーケット史上最大規模のM&Aとされる。
2026年5月に中国証券監督管理委員会(CSRC)の最終承認が下り、大基金はSMIC Northの持分と引き換えに新たにSMICのA株を受け取ることになる。つまり今回の香港上場株(H株)の一部売却は、この株式交換との複合的な動きとして解釈する必要があり、「SMICから離れた」のではなく「SMICとの関係を組み替えた」のだ。
市場への影響——「減持共振」という懸念
大基金の動きと時を同じくして、A株市場では半導体上場企業の創業者・大株主が保有株を売却する「減持共振(同時売却の連鎖)」現象が観察されている。株価が高値圏にある中での集中的な売却は、短期的には需給の悪化要因となりうる。
大基金の「次の一手」——資金の行き先
業界関係者が最も注視するのは、回収した資金の再投資先だ。現時点で有力視される投資テーマは以下の通りだ。
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最注目
DeepSeek(AI大規模言語モデル)
初の外部調達をリードする交渉中。評価額は最大500億ドルとも。中国版ChatGPTの”本命”として国策資本が史上初参入。 -
急務
先端半導体製造装置(EUV代替)
米国・オランダの輸出規制により最も調達困難な分野。ASMLの代替を国内で開発するため、官民一体の集中投資が続く。 -
成長
第三世代半導体材料(SiC・GaN)
電気自動車・パワーエレクトロニクス向けの需要が急拡大。中国はこの分野で世界をリードできるポジションにある。 -
追撃
HBM(高帯域幅メモリ)
AI学習に不可欠な高性能メモリ。韓国勢に対し3年の遅れとされるが、長江存儲(YMTC)などが猛追中。
まとめ——「撤退」ではなく、野望のための「資金調達」
- 株価高騰を利用した利確と資本効率の最大化——計画に基づく戦略的な売却
- 成熟した企業から次世代分野への資本再配分——産業育成の正常なサイクル
- AIと半導体の垂直統合——DeepSeekへの史上初投資が示す国家戦略の転換
半導体株の「売却」は終わりではない。それはむしろ、壮大な野望の「始まりの号砲」である可能性が高い。
半導体とAIの覇権を巡る米中の攻防は、輸出規制・関税・国策ファンドという複数の戦線で同時進行している。大基金の「次の一手」は、中国のテクノロジー戦略の方向性を示す最も重要な指標として、引き続き目が離せない。


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